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法の舞台/舞台の法

日常のなかにある法律問題踊る弁護士の活動報告

弁護士/舞踏家

和田 浩 (わだ ひろし)

1977 年新潟県柏崎市生まれ。京都大学総合人間学部卒業。弁護士として、さまざまな分野の事件に取り組んでいる。なかでも、障害者の権利に関する案件に多く携わっている。他方、舞踏家として舞台活動もおこなっている。福祉、芸術、司法の連携について、あれこれ考えている。
縁(えにし)法律事務所 
京都市中京区新椹木町通二条上る角倉町215
075-746-5482

最高裁判所令和3年6月23日決定

投稿日:

今年6月23日、最高裁判所で、憲法に関わる重要な決定(以下,「令和3年決定」と記します)がなされました。今回は、この最高裁決定について、簡単にご紹介したいと思います。

前提として、憲法と他の法律の関係について、簡単に説明します。

憲法は、私たち市民の基本的人権を保障するとともに、国の統治機構の在り方を定める、国の最高法規です。そして法律は、国の最高法規である憲法に適合するように作られなければなりません。たとえば、憲法が保障する基本的人権を侵害するような内容の法律は、憲法違反として、無効とされる場合があります。

このような法律の憲法適合性を判断する権限を「違憲審査権」といい、憲法81条は最高裁判所が法律の違憲審査権を有することを定めています。

民法750条の憲法24条適合性

さて事案に戻ります。令和3年決定における主な問題は、民法750条が憲法24条に適合するかどうかという点です。

まず憲法24条は、その1項において、婚姻が当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきことを定め、2項において、婚姻及び家族に関する法制度の構築を、第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねつつ、その裁量の限界を画していると説明されています。

他方、民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定し、夫婦が同姓であるべきことを定めています。

すなわち、令和3年決定では、夫婦同氏制を定める民法750条が、婚姻及び家族に関して定める憲法24条に反するかどうかが問題となったのです。

最高裁判所の判断

最高裁判所は結論として、民法750条は憲法24条に反しないと判断しました。その理由として、最高裁判所は平成27年12月16日の最高裁判決(以下、「平成27年判決」と記します)を引用しましたので、この判決についても確認しておきたいと思います。

平成27年判決で問題となったのは、令和3年決定の事案と同様、民法750条の憲法適合性でした。そして、平成27年判決は、家族が社会の自然かつ基本的な単位であり、その呼称を一つに定めることには合理性が認められること、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦になろうとする者の協議による自由な選択に委ねられること、夫婦同氏制は婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないものではないこと等の理由により、民法750条が憲法24条に反しないと結論づけました。そして、令和3年決定は、平成27年判決以降にみられる女性の有業率の上昇等を踏まえても、平成27年判決の判断を変更すべきとは言えないと結論づけました。

他方、令和3年決定においても、平成27年判決においても、民法750条が憲法24条に反するという内容の少数意見が付されました。そうした少数意見のなかでは、家族形態が多様化している現在において、氏が果たす家族の呼称という意義や機能をそれほど重視することはできないこと、夫婦同氏制を廃止した諸外国において、家族の一体感が弱まったとする実証的証拠はなにもないこと、氏を変更した一方当事者はアイデンティティを失ったような喪失感を持つ場合があり得ること、現実に96%を超える夫婦が夫の氏を称しており、自己喪失感等はほぼ妻に生じていること、旧姓の通称使用を認めることは、夫婦同氏制自体に不合理性があると認めることにほかならないこと、平成28年に日本は国連女子差別撤廃委員会から、夫婦同氏制の法改正を要請する3度目の正式勧告を受けたこと等が指摘されています。

この問題は、今後、立法においても、司法においても、議論されていく問題に違いありません。私は最高裁判所の少数意見に共感を覚えますが、皆さんはいかがでしょうか?

- 法の舞台/舞台の法 - 2021年8月発刊 vol.167

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