「部下に自立してもらいたい」「自分で考えられる子に育ってほしい」こうした相談は多く、お困りごとトップ3にランクインします。
自分で考えて、自分から動いてほしい。私のクライアントAさんも、そのように願う上司の一人でした。だからこそ「あなたの考えは?」と、部下に聞く努力もしていました。ところが、部下は意見を言ってくれません。多忙なAさんは、そんな部下に痺れを切らし、つい助け舟を出すか、突き放してしまう。その結果、Aさんはいつまで経っても部下の自立を促せず、仕事を抱え込む状況が続き悩んでいました。
これはAさんだけの話ではありません。部下や子をもつ人や、指導する立場ならば、少なからず抱えている悩みではないでしょうか?
間からはじまる
このような悩みを抱えている人が、共通して見落としている、ある事実があります。それは、多くの人は本音を言う「準備ができていない」という事実です。そもそも、本音を言うことに慣れていないのです。
まわりの意見に合わせるのではなく、自分の考えや意見を伝えるという行為は、自分が本当に思っていること、すなわち本音を言うという行為です。
けれども、私たちの多くは、本音は胸の内に隠しておくべきものだと考えています。本音を奨励され、受け入れられた経験が少ないので「自分の考えを言いましょう」と促されても、なかなか口をついて出てこないものです。埋もれている本音は、すぐには取り出せません。
だからこそ、「間」が必要なのです。即答できないからこそ、間をとります。「あなたはどう思いますか?」という問いで促したら、「間をとる」のです。その人が自分の本音に気づく時間とスペースを差し上げ、あとは待つ。すると、相手のなかで自身との対話が始まります。「自分はどう思っているのだろう?」本音はまずそこから始まります。人に伝えるまえに、まずは自己対話が必要なのです。
ある酋長の言葉
ある部族では、誰かが問題を抱えていたら、部族の全員が集まり車座になって話を聞くといいます。なにが問題で、なにが起きているのか、日が沈み夜が明けても延々と話を聞き、「十分話し合った、さあ終了」と思った最後の最後、長老は問題の張本人にこう聞きます。
「言い残したことは、なにか?」
これは、言い残している本音が「ある」前提の質問です。最も重要な本音ほど最後の最後まで出てこないものです。だからもう一度、本音を言う機会を差し上げる。忙しい現代日本人にはおどろきです。自分の考えをなかなか言わない人に対して痺れを切らして、思わずこちらが会話の主導権を握ってしまった、アドバイスをしてしまった、という経験は私にもあります。
相手が意見や考えをもって「無い」前提で関わると、相手に焦れてしまいます。だから、「ある」という前提に変えるのです。すると、間をとり、待つことが楽にできるようになります。さらに、相手も自然と間を取り出し、適切なタイミングで自分の本音に気づくことができます。
お互いに耳を傾けあって、本音を言う時間をとる。そんな社会が叶ったら良くありませんか? 肌の色、性別、年齢、価値観、経験や考え方の違う人同士が理解し合い、ともに手を取り合い、力を合わせていける世界です。この仕事を始めて以来、私はこの素晴らしい世界を目指し活動を続けています。
あなた自身が「ある」前提で、安心して間を取る。すると相手も安心して間を取り、自ら考えて動き出す。ちょっとした違いですが、今からチャレンジしてみませんか? 「間」ひとつで景色ががらっと変わりますよ。