数千年以上にわたる進化や淘汰の歴史のなかで、突然変異によるバナナ自身の変化や、栽培繁殖や種の交雑などの人為的な努力が相まって、いま私たちが手にするバナナが存在します。今回は「草本性果樹」(直訳すると、草だけど実のなる木)という特殊なポジションのバナナの生存戦略について考察します。
他の植物に寄生して養分を吸い取る一部の植物などを除くと、すべての植物にとっては、光合成でエネルギーを作り出すことが最重要です。そのためには他の植物より早く、大きく葉っぱを成長させることが大切で、出遅れて太陽の光が受けられなくなると、場合によっては枯れてしまいます。
葉っぱの鞘の部分が重なりあってできたバナナの幹(仮茎)は、縦横両方向に、ダンボール箱の仕切り板が層を成したような構造で、縦方向の圧縮荷重や横方向の曲げ荷重に耐え、幹の中にたくさんの水を蓄えることによって重量構造物のように構えて剛性を保っています。幹が構造的にしっかりしているので、2メートル以上の巨大サイズの葉っぱを扇風機の羽根のように円周方向に何枚も広げることができ、東西南北の全方位に向かって、朝から夕方まで一日じゅう、上空で日光を独り占めしています。同じ草本性でも、地面近くでひょろひょろと葉っぱを伸ばしている下草たちとはまったく様子が異なり、まるで天を仰いでいるようです。
もう一つの驚きはその成長スピードです。バナナの幹は大木のように見えても、実態は繊維をより合わせて作った〝3D段ボール箱〟に水を溜めただけの草です。ゆえに成長が早く、一年も経たずに直径30センチ、高さ4 メートル程度に成長します。緻密な組織を持つ木の幹が成長し、広く枝を伸ばして同じ面積分の葉っぱをつけるには、おそらく10倍以上の期間が必要です。
バナナはもちろん、木のように何十年、何百年と長く成長を続けることはできませんが、1年半程度でバナナの株が命を終えるときには、脇に新しい芽を出して世代交代を済ませます。そこそこ派手に短い人生を謳歌するバナナは、熱帯植物の代表格としての特徴・風格を持っています。