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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

【Vol.36】いまこそ万難を超えてオーガニックの拡大を

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この数年、それまでほとんど縁のなかったヨーロッパ各国やアメリカに渡航する機会が増えました。

欧米諸国では農産物のオーガニック化が進んでおり、日本は立ち遅れているということは、もちろん知識としては知ってはいましたが、実際に行ってみて感じたのは、産業としての成熟度と、市場の大きさの歴然とした差でした。特にアメリカのナチュラルフードやナチュラル雑貨を扱う店の規模は圧倒されるほどのもので、店内には日本の最大規模の店舗の何倍もの商品がところ狭しと並べられ、来店者数も半端ではなく、レジの前には絶えず多くの人が並んでいます。これは決して大都市だけに限った話ではなく、地方の街や村の店舗であっても、日本とは比較にならない品揃えと来客数なのです。

各国のオーガニック食品の流通比率を示す正確な統計はみつからないのですが、ウェブでざっと調べてみても、欧米のこの比率が4~18%であるのに対し日本は1%未満となっており、その差は何十倍といってもいいでしょう。中国でさえも、この比率は日本を超えるレベルとなっているようです。

実は中国では、ずいぶん前から安全で土壌や水源を汚染しないように有機農産物の供給と需要を増やそうとする国家レベルでの取り組みがあります。

弊社の看板製品となっている「かえる印のナチュラルかとり線香」の主成分である除虫菊粉末は中国南部の雲南省からやってきますが、彼らは除虫菊を大量に栽培して安全で効果の高い天然(由来)農薬として農業に活用しようとする国家的な戦略を策定して、安定した品質と供給を実現しています。これらの天然農薬を有効活用することで、化学農薬の出番を減らし、生産者の負担も軽減しようとしているのです。かたや我が国では、天然農薬に対する研究も非常に貧相で、通常農法から有機無農薬栽培に移行していくまでのつなぎとなる資材がほとんど認可されていません。「データが足りないから認められない」というスタンスは、国民の安全を守るという意味では理解できるのですが、予算もつけずデータだけ出せといわれても、これをクリアすることは農業者や天然農薬となりうる資材を販売しようとする業者にとっては無理難題となってしまうのです。これではいつまでたっても「より安全な農法」への移行はすすんできません。

買う側の意識の問題も横たわります。欧米では「オーガニックな農産物には虫がついていたり、見た目が悪いのが当たり前」という意識が浸透しているようですが、私たちのところには「無農薬天日干しの椎茸に虫がついていたので、メーカーや製造工程を徹底的に調査して文書で回答と謝罪してほしい」「買った天然ごまを庭に蒔いても発芽しないのは詐欺的」(食用のゴマと種子としてのゴマは乾燥の仕方が違い、また発芽も非常に難しいもので、ただ土に蒔けば発芽するというものではない)というようなクレームが後を絶ちません。私たちは流通業のつとめとしてこのようなお声を受けることは不可避と考えていますが、実際に調査されたり指導されたりする生産者の気持ちを考えると、ただでさえ生産に苦労しているのにさらなる心痛を与えることになり、やりきれない気持ちになることがあります。

これらの問題を直視し、考えに考えた結果、私は、「このような食品を、根底から理解して愛して下さる消費者の絶対数を増やすしかない」という結論に至りました。現時点では生鮮野菜の流通には社内的な人材不足から手を付けていませんが、遠くない将来に野菜そのものの通販はもちろん、ほかに類をみないレベルの品揃えの店舗を開くことも含め視野に入れています。他業種では普通であっても、自然食流通の現場ではほとんど活きていないIT技術の導入や効率化をすすめ、価格もできる限り一般食品に近いレベルで提供し、いままでオーガニックとは縁遠かったお客様ともご縁を結びたいと考えています。

『苦労はあっても、安全に作れば必ず売れる。』という安心感を生産する皆さんへ提供し、土壌や水、そして体内に蓄積されるであろう化学物質の絶対量を減らして未来に命をつないでいくことのできる社会へ微力ながら力を尽くしたいと決意しているのです。

- 中川信男の多事争論 - 2010年8月発刊 Vol.36

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