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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

【Vol.91】変わらない味

投稿日:

最近、私の中でとてもホットなトピックは「食べものの味と嗜好」についてです。何年悩んでも自分の中ですら結論の出ていない件ですが、ここでお話しさせていただきます。

同じ味でないカレー

あるお客様にずっと愛好していただいていたカレーの商品名には「野菜とナッツ」と入っていました。インドの国際認証を多数受けている会社のベジタリアンのカレーです。とある卸元からの提案で、弊社で扱うことになりました。この卸元のビジネスの中心は、東京の超高級店や、超高級ホテルへの卸です。弊社のような自然食系のお店にはほとんど並んでいない品で、他にも、高額かつ素晴らしい味と香りのオリーブオイルやワインなどを扱っておられます。この会社の社長がよくおっしゃることは、「食べものは味がすべて。別にオーガニックだとか食の安全とかだけを希求しているわけでもないけど、ちゃんとした味のものは、オーガニックであることが多い。けど、必ずしもそうとは限らない。ちゃんと人によって作られた食べものは、時期によって、作り手の状態によっても味が変わることは当然。ワインだってそうだろう?」という話です。お客様は、「ナッツのカレー」が大好きで、繰り返しリピートしていただいていました。しかし、あるとき弊社からお届けした品の商品名には「野菜とフルーツ」と記されていました。当然、弊社の納品ミスかと判断し、すぐに正しいはずの品をお送りしました。しかし、再度お届けしていたのはやはりフルーツのカレーで、ナッツのカレーではないのです。商品コードは同じなので、どうもおかしいなと卸元に問い合わせますと、「作り手の判断もあって、配合のバランスを若干変え、フルーツの味と香りが立つようにしたので、それに応じて名前を変えました」という話でした。私は、名前が変わっただけで中身は同じだろうと、お客様にそのようにご案内したのですが、ずっと続けてご購入いただいているお客様ですから「ほんとうに同じものですか? とても、同じものといえる味ではありません」という問いかけをいただいたのです。再度、卸元に確認しますと、「食べものの味は、作り手の判断やそのときの条件によって、法律の枠内でバランスを変えるのは当然」という説明でした。確かにワインの味と香りは毎年違いますし、ブレンドも異なってきます。カレーとワインを同列にみると加工度の違いという部分があるにせよ、嗜好品であることは同じです。この件では、商品名も変わっているので、明らかに私たちに責任があり、ご返金の提案をしています。しかし、名前の件は私たち業者間のコミュニケーション不足が原因であるとして、スパイスや野菜、果物などの自然素材だけでできた加工品の味が変化することはほんとうにダメなことなのかどうか、私は頭を抱えてしまいました。

オーガニック、自然栽培じゃないとおいしくない?

長年自然食に関わっておられるある方の口癖は「少しでも農薬がかかっていたり、少量でも添加物や高度な加工物の配合があったりすれば、そんなものは食べものじゃないし、美味しいはずもない。それは、完全に舌と脳が麻痺している証拠」というものです。絶対にこれはおいしいとおっしゃる指定の品をいろいろと買って食べてみるのですが、どれもおいしくないのです。素材そのものは確かにおいしいのですが、加工が施されたものは、ことごとく不評です。この前提でいけば、「安全な食べものはおいしいという前提で、脳で解釈してから、これはおいしいと信じて、たとえおいしくないものでも、これこそがおいしいのだと信じながら食べる」。つまり、知識や思想が味覚の先に必要、ということになってしまいます。これは、ほんとうに「おいしいという感覚」なのでしょうか? 味とか嗜好とは極めて主観的であり、このような論争が夫婦げんかの原因となって、どうしたらよいのかというご相談をいただくほど、よくある話でもあります。

かたや、自社輸入しているオランダのミシェルが作るオーガニックスープも、味が微妙に変化して、卸先のバイヤーさんからお叱りを受けることがあります。ミシェルは、巨大な圧力鍋と向かい、そのときの素材の味を確かめつつ、原材料表記の枠内で微妙にスパイスの配合や、調味料を入れるタイミングなどを変えます。入荷する野菜自体が、風味や、味の濃度を変えることもよくあるのです。それを「素晴らしいこと」と言っていただける先と、「それでは販売出来ない」という先とがあります。一方で、工業的に大量に作られる食品は、とにかく安定しています。味の変化はほとんどなく、強い味の添加物で調整されるので、いつ、どこで、何を食べても同じです。マクドナルドがその典型ですが、市販品の大半はこのような「安定したブレのない品」といえるでしょう。とはいえ、安全に少量で作られ、そしておいしくて大好きといっていただいた品が、突然名前も味も変わってしまうと、これは販売者として胸が痛みます。同時に、思想や知識で味覚を騙すこともできないと私は思っています。もちろん、安全に育てられた農産物や、良い素材、充分な時間をかけて丁寧に作られた調味料の味を学び、身体に染みこませていくトレーニングは必要です。それは当然としても、加工品は嗜好品の一種であると同時に、簡単に楽しめる、暮らしに潤いを与える品でもあります。私は手作り派だから買うのは素材だけで充分、という方には直接関係のない話ではありますが、その素材とて季節や畑の違いでも味が変わります。リンゴの味が去年と同じでないのはおかしいというお叱りを受けることもあり、素材や加工品の味が変わるのは当然なのか、名前まで突然変わっていいのか、多様なほんもの食品を流通する経営者として、終わりのない問いかけは今日も続いています。

- 中川信男の多事争論 - 2015年4月発刊 Vol.91

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