「壁」の変遷
100メートル走における、9秒98の日本新記録。19 年間も10秒00のまま更新されることのなかった「10秒の壁」が、ついに破られました。陸上競技で「壁」として有名な話があります。
かつて1マイル走(1609メートル)では「4分の壁」と呼ばれ「1マイル4分を切る記録は、人間の運動能力では不可能だ」との声が定説とされた時代がありました。
実際、その4分を切るのに31年もかかっています。面白いのはここから。初めて4分の壁を超えた世界記録は、わずか46日で塗り替えられ、
その後は1年のうちに37人、翌年には3 0 0 人ものランナーが4分を切ったのです。
そして、このたびの日本での100メートル走でも、2週間後には向かい風の条件ながら10秒00が記録されました。
これぞ、思い込みの壁。できないと思い続けていたものが、誰かができたことで「壁」ではなくなり、他の人も「できる」と思うことができるのです。
この後、9秒台の連鎖があるかもしれません。
欲求と欲望
100メートルを0・1秒速く走れるようになったからといって、日常生活に影響があるわけではなく、バイクや車を使えばもっと早く移動できます。それでもさらに速くというのは、より高みを目指す人間の欲求のなのでしょう。
2020年東京オリンピックが近づいてきたこともあり、どの競技も選手の育成が盛んです。特に小学校の高学年から中学生にかけての期間は「ゴールデンエイジ」として、闇雲に体力勝負させるのではなく、素早さや巧みさを身につけることが重要視され、その後の成長発達を見極めた指導へと見直されています。
「体育」だけでなくゴールデンエイジ期には「知育」「徳育」も含めた3つの教育を取り入れた指導へと切り替わっています。かつて「言われた通りにやれ」「理屈は考えずに体で覚えろ」と指導されていましたが、これでは自分で考えず動物的な反応しかできなくなるのではと考えられるようになりました。指導は「調教」ではなくなったというところでしょうか。
また、人間関係、社会との関わりにおける「徳育」も欠かせないものとなっています。指導者であるなら「親ではない」「学校の先生ではない」という言い訳は通用しないでしょう。
スポーツを通して、人として良い行いをすることや、好き放題せずにときには辛いことも抱え「辛抱」することも伝えていく。「欲求」と「欲望」を区別していくことも大切でしょう。
ひとつになるということ
「躾」とは、し続けることで「身」から現れる「美」しさ。成長の過程では、突然なにかを変えるよりも、日常を整えていくことが大切です。
なんといっても「いただきます」と「ごちそうさま」と合掌すること。手を合わせるのは、食べるものと自分の体とが合わさってひとつになるということを意味します。
合掌し感謝してからいただくことが、日常を整えることになります。
禅語に「喫茶喫飯」とあり、お茶を飲むときはお茶を飲むことだけに集中して、お茶と一つになる、ご飯を食べるときには食事をすることだけに集中して、
その食事と一つになることを意味します。テレビを見ながら、スマホを触りながらといった「ながら食べ」をしないことはもちろん、
必要以上に考えごとをせず極力無心でいただくことも大事なことです。
「○○を食べちゃって、」とか「先日食べた○○が良くなかったのかな」
と耳にすることがあります。
手を合わせることの意味を理解したうえで「ごちそうさま」ができているか、問いたくなります。
食べてから何日も経っているのにまだ食べたものと同化できていない。食材に良いも悪いもありません。
「そんなものを食べていたら……」といった周囲の声に「調教」されてしまってはいないでしょうか。そんな「いけない」という思い込みこそが、
体に良くない作用をもたらしてしまうかもしれません。あなたの気持ちこそが、どんな料理においても最後のスパイスといいます。
せっかくなら、美味しくいただきたいものですね。
圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー
西下 圭一(にしした けいいち)
新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。
年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。
自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。
兵庫県明石市大久保町福田2-1-18サングリーン大久保1F
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