「うちの家内に2年前にガンが見つかってね」と、打ち明けられた人がいました。打ち明けたご主人は、誰にも言わずにずっと秘密にしてきていたけれど、最近になって奥さまのご友人の数人が知っていることがわかったのだとか。「人には言わないでおこう」と約束をしていても、つい話したくなってしまうものかもしれません。
「話す」は「放す」に通じます。人に聞いてもらうことで、自分が抱えているものを手放して少し気が楽になるものです。ただ、話す内容によっては、自分が軽くなった分だけ相手に重荷を背負わせてしまうこともあるので、なんでも話すことが最善とは言い切れません。先のご主人は、口の堅い、精神力の強い人なのでしょう。
一昔前までは、病気の告知は主治医に委ねられ、家族の判断で本人には知らされないケースも多くありました。医師からの説明と患者からの同意を意味するインフォームドコンセントが定着してきたのは最近になってから。患者の知る権利が尊重されるようになったのは良いことなのでしょうが、そればかりでもありません。日本においては自殺の理由の第一位が健康問題。病気が発覚し、それを知ることで将来に絶望してしまう人もいることは事実なのです。
知らなければ穏やかな心のままでいられることを「知らぬが仏」というように、知ってしまったがゆえに悩んだり苦しんだりしてしまうこともあるのでしょう。
秘密のヒミツ
人に知らせないようにすることを「秘密」といいますね。秘密の「秘」とは、「禾」に「必」と書きます。禾とは穀物、必とは欠かせないこと。大切なものを育てるうえで不可欠な極意といった意味になります。また「密」は、隙間なくぎっしりと詰まっている状態のこと。ですから秘密とは、親しく関係の深いなかでのみ情報を共有し極意を明かし合っていたものなのです。
陰陽論で考えますと、「密」のぎっしりと凝集した状態とは内向きのエネルギーが働いていて、陽性。公開せずに時間をかけて守られて熟成していくのも、また陽性。大切な情報である「秘」を陽性化していくことが、秘密のヒミツとなります。
陽極まって陰となるかの如く、外にはもらさないでいる内向きの力が働き続け、なにかのタイミングでブレイクすると、陰性の拡散力が働くことになる。そのエネルギーが強いほど爆発力は大きくなるもの。秘密にしていたことが大きいほど、また秘密にしていた期間が長いほどに、反響が大きくなるのは自然なことなのです。
秘密というのはなかなか隠し通せるものではないですし、その秘密にしていたことがマイナス情報を含むものならなおのこと、早めに打ち明けるほうが良いようです。反響の大きさによっては、一瞬にして人としての信用を失ってしまうこともあるのですから。
情報公開の時代
新型コロナウィルスの感染症が、これほどまでに拡大してしまったことも同様に考えられます。初期のうちにきちんと情報共有できていれば、ここまで拡大することを防げたのではないでしょうか。
情報を公開することに良い面とそうでない面があるのは事実です。それでも、早めに知ることができれば対処の仕方も変わります。どんな情報も公開される現代においては、何事も隠し通せるものではなく、素早く知らせ、素早く対処する。自分から手放すことで、自分だけではなく周囲の人たちのことも厄介なことに巻き込まずに済ませられることがある。
新型コロナウィルスの騒ぎからも、学ばせてもらえることがありそうです。困難な出来事には違いありませんが、前向きに考えたいものですね。