「速く走るために、手っ取り早くできる筋トレが知りたい」。ときどき、こんな質問を受けます。答えは決まっていて、「走るための筋力は、走ることでつける」ということ。どこかの部位だけを強くしたからと、突然速く走れるようになるようなものではありません。それでも食い下がってこられたり反論されたりすることもありますが、そのときは一言、「筋トレしてる野生動物を見たことがあるか?」と尋ねてみることにしています。
腹筋運動するトラなど、まず見たことはないでしょう。彼らは日々ひたすら一生懸命に生きていて、そのうちにやがて速く強くなっていきます。それが生きていくために必要なことだからであって、速く強くなるためになにかをすることはありません。
そうはいっても、「速く走れるようになりたい」と思ったその気持ちには応えたいですし、その気持ちの冷めないうちに行動してほしいとも思います。
まずは、ほんの数歩でもいいから実際に走ってみる。そのときの感覚を忘れないうちに、少し距離を伸ばしてみたり、少し速く足を回転させてみたりして、工夫の範囲を広げていくのです。効果的なトレーニング法を探して、その方法が見つかるよりも先にすでに速くなっている気がしませんか。
気になった人は、寅年の今年のうちに始めてみてくださいね。
部分の集合体
こんな経験はないでしょうか。お気に入りのシャツを着て、この前買ったばかりのズボンに、一番好きなコートを着て、さぁ出掛けようと鏡を見たら、なんだか変……。だったらと腕時計もお気に入りのものにしたり、メガネを替えてみたりするのだけど、がんばればがんばるほどにおかしなことになっていく。お気に入りのものばかりを身に着けたからと、全体でお気に入りになるとは限らないのです。
トレーニングも同じことで、走るために必要な筋肉を一つひとつ鍛えていったとしても、それだけで走れるようになるとは思えません。むしろ、走ることでしかつかない筋肉もあるし、走るうえではそれが大切な役割を果たしていたりするものです。トレーニングの過程であれやこれやと目移りすることもあるけど、それで鍛えた「部分」の集合体が「全体」にはならないのです。ましてや、手っ取り早くと願っても、身体の一部分だけを他の誰かと入れ替えたりすることもできません。
このところ、「完全栄養食」なる加工食品が話題のようです。完全栄養食とは、厚生労働省が年齢や性別ごとに定めた「日本人の食事摂取基準」に基づき、一食あたりの必要な栄養素をすべて摂取できることを目標に開発された食品のこと。必要な栄養素がすべて揃っているから「完全食」とされています。
食養生の観点からすれば、完全というには決定的に欠けているものがあります。それは、イノチ。必要な栄養素の集合体といっても、微量ミネラルの役割が抜けています。ましてやイノチを全体としていただくことにはならず、生命を養うことにつながらないのではと考えられるのです。
部分の集合体が全体とはならない。このことを憶えておけば、惑わされることもなさそうです。
自然の風景
禅の言葉に「江山清風月」とあります。川と山、清らかな風と月が見事なまでに調和して美しい風景を描いている様子のこと。私たちはその自然の調和のなかに溶け込んで生かされていることを知ると、自然に感謝する心が湧いてくるということです。自然の風景は、ただそこに全体としてあるもの。なにかが欠けても自然ではないし、なにかが置き換わっても不自然になります。自然のなかで生かされていることを感じに、出かけてみるのも良いでしょうね。