前号まであざとしみの治療、刺青・アートメイクの除去について書いてきました。これらは一部を除きレーザーを使用して治療をおこないます。今号はこのような「色」に対する治療ではありませんが、主にレーザーで治療をおこなう傷跡治療について書きます。
外傷性刺青(色がついた傷跡)
交通事故や転倒などで擦り傷や切り傷などを負った際、アスファルトや土などを除去しきれない状態で傷が治ると、異物が皮膚の中に残ってしまい色素沈着をきたすことがあります。その状態を「外傷性刺青」といいます。手の平などに尖った鉛筆を刺して色が残った場合も同様です。外傷性刺青は自然消退することはありませんが、レーザー治療で新たな傷跡を残すことなく改善が望めます。
凹凸のある傷跡
リストカットやフロントガラス外傷などのケガ、手術の傷跡、妊娠線や急激に太ったことによる肉割れなど、凹凸の目立つ傷跡はレーザー照射で目立ちにくくすることが可能です。傷跡治療に使用するレーザーは今まで書いてきた特定の色素を破壊して色を取り除く色素性疾患用のレーザーとは作用機序が異なります。凹凸のある傷跡にはフラクショナルレーザーという種類のレーザーを使用します。このレーザーは皮膚に微細な点状の孔をあけて、皮膚組織にダメージを与え、皮膚の創傷治癒能力(元通りに治そうとする力)を利用して傷跡を目立ちにくくします。同じ作用を利用してニキビ跡の凹凸をなめらかにする治療にも活用しています。ひどいニキビ跡がある芸能人の皮膚の凹凸が徐々に目立たなくなるのをテレビを見ていて気づかれた方もいらっしゃると思います。レーザーで傷跡やニキビ跡の凹凸をなめらかにする治療は、回数を重ねて少しずつ改善するという経過を辿りますので深い陥没、凹凸が目立つ傷はある程度の治療期間が必要です。フラクショナルレーザー治療はまだ赤みのある新しい傷跡にも、古くなり白くなった傷跡にも有効です。
シワやたるみへの応用
傷跡やニキビ跡の凹凸に対するフラクショナルレーザーの原理を応用し、熱エネルギーを真皮へ深達させ、コラーゲンやエラスチンを産生させて、肌の弾力やハリ、シワやたるみの改善、肌質改善、毛穴の縮小、タイトニングや若返りなど美容効果を得ることができます。治療は適切なレーザーの選択をはじめ、さまざまな治療法を使い分けますが、肌の状態、患者様のご希望、ダウンタイム(通常の生活に戻る時間)の許容範囲などを伺いながら治療方法を組み立てます。
ひきつれや赤く盛り上がった傷
形成外科では、ひきつれ(瘢痕拘縮)や赤く盛り上がりがひどい傷跡(肥厚性瘢痕)の治療には、圧迫療法と手術が適応されるのが一般的です。しかし、赤色に反応する血管腫治療用のレーザーで赤みと盛り上がりが改善すると、手術がおこないやすくなり、よい手術結果が得られやすくなったり、レーザー照射だけで治ってしまったりすることもあります。傷の範囲を超えて赤く盛り上がったり、傷がないところが赤く盛り上がったりする場合は、ケロイドの可能性があり難治性となります。
アメリカの学会で勉強したレーザーによる刺青除去を、日本人に多く見られる青あざ治療に応用するため、私が日本にレーザー機器を導入したのが1992年のことです。命に別状がないとして積極的に治療をおこなわないことが主流であったあざや、年齢が皮膚に現れるのは仕方ないと諦めていた美容面の希望に対応できるようになったことはとても喜ばしいことです。
※交通事故で車のフロントガラスで頭部や頸部、顔面部を怪我すること