「行き詰まっていて、お聞きしたいことがあります。(中略)どのようにされるか教えていただけないでしょうか」。治療家として独立開業している後輩から、こんなメールが届きました。
相談内容から慎重に向き合う必要があると感じ、「メールの文字情報だけでやり取りできるものではない気がするから、一度改めて時間を取りましょう」と返信しました。悩みごとの多くは、どこかに正解があってそれを見つけてくれば良いものではなく、そもそも正解などないことが多いものです。
相談される立場としては信頼されていることが有り難く、考え得るところを伝えるのは簡単かもしれません。ただ、次にまた同じような壁に突き当たったときにも教えてあげなければならない。それを続ける限り、どこまでも私の後ろしか歩めないし、ましてや私を超える存在にはなり得ません。こちらも信頼するからこそ大事にしたい相談だと考えたのでした。まずは自分でもう一度しっかり悩みぬいて、ある程度定まってから会って話せれば、こちらの想いが伝わっていればいいなと思います。
メラビアンの法則
人とのコミュニケーションというのは、言葉だけで伝わるものではありません。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが導き出した法則によれば、コミュニケーションにおいて言語情報として意味が伝わるのはわずか7%。それよりも口調や声の大きさなど聴覚からの情報、準言語コミュニケーションが38%とずっと大きく、さらに表情や身振り手振りなどの視覚情報、非言語コミュニケーションが55%とされています。
「目は口ほどに物を言う」のは真実なのです。現代におけるコミュニケーションツールでは、メールやSNSでのメッセージが言語情報、電話での会話が聴覚情報、直接会って話せば視覚情報も加わります。テレビ電話・オンライン会議が進んだとはいえ、画面に映りきらない部位や、目の前にいないと伝わらないピリピリした空気感など、直接顔を合わせないと伝わりません。せっかく会えるのであれば、感情を表に出すことも良くも悪くも人間らしいコミュニケーションといえます。
AI(人工知能)の発達で、さまざまな分野で人間に代わって働いてくれることが増えています。人間の仕事がなくならないかと「AIの人間化」を危惧する声もあります。一方で私たち人間が人間らしさを疎かにする「人間のAI化」のほうがはるかに怖いと思います。
コミュニケーションで肝心なのは、心をこめること。付け加えるなら、「速やかに」「きちんと」「わざわざ」の3点。とくに、お願いごとやお詫びなど大切なシーンでは不可欠です。「速やかに」できるだけ早く自ら動く。「きちんと」した身なりで気を引き締めて伺う。「わざわざ」こちらから出向いていく。だらしない格好で、なにかのついでに立ち寄るようでは、伝わるものも伝わらなくしてしまいかねません。
偶然がもたらす
不思議なことに心をこめた行動ほど、道中で偶然の出会いがあったりして良き方向へと導いてくれるものです。ただし、こうした偶然はあくまでも結果で、それを目的として動いても得られないでしょう。
禅の言葉に「白珪尚可磨」とあります。「白珪」とは、白い完全体の玉。それをもさらに磨き続けるべしという意味です。玉というのは磨けば磨くほど輝きを放つので現状に満足してとどまることなく、さらに高みを目指して精進しなさいとの教えです。満足して動くことを止めたら、成長や発展も止まってしまいます。
磨けばさらに輝く。いつまでも磨き続けたいものです。