先日、日本に帰国中に東京八王子ロータリークラブの例会に招待されて、東京まで行ってきました。そこで2年ほど前に、東京八王子ロータリークラブの50周年記念事業として、バッタンバン州バナン郡の2つの村に、2台のトラクターと1台の水汲み用ポンプをご寄付いただいたお礼と、ご報告をしてきました。当時は、4名のクラブのメンバーの方に、バッタンバンの2つの村まで、まだ道の整備がされておらず、雨が降って大変な道のなかお越しいただきました。
この2つの村では、現在タイ国境の村で実施している地雷埋設地域での村落開発支援プロジェクトの試験的なプロジェクトとして、村落開発プロジェクトが実施されました。この2つの村も90年代後半まで多くの地雷に汚染されており、当時は「人々が使っている水がめのすぐ脇に地雷が見えていた」というほど、多くの地雷が人々の生活範囲にありました。その後、村人の生活圏内の地雷が、2000年代初めまでに撤去されたこともあり、最初の試験的なプロジェクトを実施するのにちょうどいい地域だったのです。まず、村ごとに貧困層の村人を中心とした住民組織を設立し、そこで小規模融資(マイクロクレジット)や健康保険制度の設立を支援しました。そして、それぞれの村の住民組織に、トラクター2台と水汲み用ポンプ1台ずつをレンタルする制度を作る支援を、東京八王子ロータリークラブの50周年記念事業でご寄付いただいたトラクターと水汲み用ポンプで実施しました。
このレンタル制度で心配されていたのは、レンタル品がうまく管理されるかどうかという点でした。そのため、どちらの村も1回40ドルという安めのレンタル料金で制度を始めました。もし他のトラクターを持つお金持ちからトラクターを借りれば、50ドルはかかります。それに比べれば安く借りられるため人々はレンタル制度を利用し、そして住民組織にお金が貯まります。住民組織に貯まったレンタル料金は、トラクターのスペアパーツの購入費やメンテナンス費として使用される仕組みです。
2つの村のうちチャンホー・スヴァイ村の方は、村長と副村長がそれぞれ住民組織の副リーダーとリーダーを務めており、彼らを中心にレンタル制度を運営していました。もう1つのドーン村は、副リーダーを村長が勤めており、リーダーを村のお寺の仏教行事の祭祀をつかさどるアチャーと呼ばれる人が勤めていました。問題は、この2人が支持するカンボジアの政党が違うことでした。村長は、現在の与党であるカンボジア人民党、アチャーは、野党第一党のサム・ランシー党を支持していました。そのため2人は何かと対立し、そして多くの親戚がこの村にいるアチャーの方が、多くの村人から支持を受けていました。トラクターと水汲み用ポンプをめぐっても、どちらが管理するかでこの2人はもめていました。結局、村のお寺で管理することになりましたが、両者のわだかまりは続いていました。そのような状況ではありましたが、トラクターや水汲み用のポンプのレンタル制度は実施され、多くの村人たちが畑や田んぼを耕し、トラクターの後ろに荷台をつけて、多くの荷物や収穫した農産物、ときに人を運んでいました。2人の政治的な対立よりも、もっと村全体の利益になるのは、お互いに協力することなのです。回収されたレンタル料金で、オイルやタイヤ、その他のスペアの部品が購入され、トラクター、水汲み用ポンプは2年間、村人たちによってメンテナンスがされてきました。
またこの村では最近、村人たちが話し合い、40ドルでのレンタル料金では貧困層の人々にはレンタルが難しいということで、5000リエル(1・3ドル)ほどで借りられるようにレンタル料金を改定しました。村人たちの生活の状況に応じて、村人たちが自分たちで制度を作っていくことは重要です。もともと40ドルのレンタル料金も村人たちが話し合って決めたのですが、それが貧困層の人々にとって難しいのであれば、変更は歓迎すべきことです。とにかく自分たちの村ですから、村人たちが自分たちで考え、自分たちの村をどう発展させていくのか、どんな社会を作りたいのか、村人たち1人1人が考え、住民組織に参加していってほしいと考えています。まだまだいろいろな問題や障害がごろごろ転がっていますが、それらを1つずつ乗り越えて、村人たちがお互いに協力していい社会を創っていく手助けをテラ・ルネッサンスができればと思います。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 |