「おかあさん、あしたからトマトいれないでね」と、長男が言い出したのは、本当に突然でした。トマトが大好きだから、毎日お弁当に入れて欲しいといっていたのに、急にやめてくれといったのは数ヶ月前。それ以来、大好きだったトマトもトマトを使ったスープも一切口をつけなくなってしまいました。理由は「おいしくないもん」でした。
トマトを食べなくなったのを皮切りに、何でも好き嫌いなく食べていた長男が、だんだんと好き嫌いを言うようになってきました。“きのうまで食べていたのに”というものを食べなくなるのです。「突然どうしたのかしら?」と思っていたのですが、どうもお野菜が大の苦手な幼稚園のお友だちの影響を受けているようでした。思い返せば、トマトを食べなくなる少し前から「きょうも○○くんは、おやさいをごっくんできないねん」と、毎日のように言っていたのです。そのお友だちにお付き合いするかたちでお野菜を食べなくなってしまったのかもしれません。
そんな長男を連れて、先日神奈川県の平塚で、無肥料無農薬で野菜を作っている農家さんのところへ行く機会がありました。平塚の駅近くで定期的にマルシェをひらいているということで、伺ったのです。ちょうど夏野菜から秋野菜になるところで、ふたつの季節のお野菜が力強くピカピカと輝いていました。そこで息子二人に、「このトマトおいしいから、食べてごらん」と、トマトをすすめてくださいました。せっかくのご厚意にもかかわらず、長男は「けいとくん(長男)、トマトきらいやからいいわ」と、受けとろうとしません。
ところが、次男はトマトが大好きです。いただいたトマトをおいしそうに食べ始めました。あまりにもおいしそうに食べているからか、普段次男がトマトを食べていても知らん顔をしている長男が、この時は「ちょっとたべてみようかな ?」と、トマトを口にいれたのです。そして、「これ、おいしいわ」ですって。
何ヶ月もの間トマトを食べていなかった長男が、「おかあさん、たくさんかってかえろう」と、言い出したのです。“ほんもののトマト、おそるべし!” です。一瞬にしてトマト嫌いをなくしてしまいました。
まるで、魔法のトマトです。でも、これは魔女がコンタクトをひとふりしてできるような魔法ではなく、無肥料無農薬という自然農法で愛と汗と知恵と時間を使ってうみだされた、魔法のトマトです。こんなお野菜が、もっともっと身近になる世界にしてゆきたいものです。