東日本大震災から5年の月日が流れました。被災地から遠く離れた京都の地ではありますが、それまでほとんどご縁がなかった東北地方の皆さんとの濃密な関わりが増えた5年間でもありました。そんなに時間が経っているという実感がない一方で、もっと役に立つことができたのではないかという後悔すら感じています。当時、原発がとんでもないことになっているという一報から、このままでは大変なことになるという焦りがあり、重装備で福島を往復した数ヶ月間。その後、訪問するたびに高汚染地域には除染土が真っ黒な袋に詰められて行き場なくどんどん積み上がっていくさまを見ると、心が痛み続けました。確かに沿岸部の道路やインフラはみるみる改修されてきましたが、それはお金をかけて、人手をかければ回復可能なものたちばかりなのです。もちろん、津波被害で失われた大切な命は戻ることはありませんし、命を亡くされた3 万余人の方々、膨大な数のその方たちに関係する人たちの喪失感や恐怖感はまだまだ癒されていないのでしょう。
私がさらに強い痛みと憤りを感じるのは、生きている人たちの間に広がる分裂のエネルギーです。見えない放射性物質は、人々に疑念をまき散らし、線量は同じでも行政境界の向こうと手前で全く違う対応に不信感を広げました。原発から飛び出したのは、何十年から何千、何万年もなくならない危険物だけではありません。核は心の内側から人々を引き裂き、ともすれば一人の人の心ですら分裂させようとするエネルギーです。私に言わせれば、核は物理的・技術的に安全だとか危険だとかいう論議のレベルを超えて、すべてを収拾不可能にする絶対苦の存在なのです。国と国は核の有無と影響力の範囲でいがみ合い、原発の稼働状況で場所のイメージは代わり、地域文化やコミュニティーを分裂させ、破壊します。このようなことは政治の話ではないと私は確信しますが、ときに政治的な見解として非難されることですら、誤解と疑いを生んでいるといえます。
海外の目は見ている
震災直後、日本人は世界中で賞賛されました。あれだけの苦難と混乱に直面しているにもかかわらず、規律正しく、お互いを助け合い、そして立ち上がろうとしている姿は、どの国の人にとっても日本がこの世界にあることが誇りであったはずです。そして台湾やブータンをはじめてとして、多大な経済的、心理的応援をいただきました。この感謝は一生忘れません。しかし、その後の原発を巡る出来事は、日本人は忘れやすく、ときに不感であると写りました。いくつかの国は日本の事故から学びを得て、自国のエネルギー政策を決定的に変更するに至りましたが、この国はどうでしょうか。私は日本を愛し、そして素晴らしいところで有り続ける国にしたいと思っていますが、残念なことに原発に言及するだけで売国奴さながらと認識されます。歴史認識と愛国心、社会政策のあり方、そして原発をどう考えるかの間に固定した相関性はありません。私はいつも是は是、非は非という姿勢でいます。そんな私がどんなことを考えていようとも、またこの国では地震が繰り返しおき、ときに火山が噴火しているのです。
また、中国の西側一部地域、欧州の東側一部地域の特定の農産物からの輸入物の一部からまだ放射能が検出されている事実を、どれほどの人がご存じでしょうか。中国の最後の大気圏核実験から35年、チェルノブイリ事故から30 年も経っています。自社の放射性物質測定室を持ち、測定結果をつぶさに見ている私が申し上げるのですから間違いありません。私たちはたった5年でいろいろなことを忘れてはならないのです。人の命の重さと同じように、起きた辛い経験から何を学ぶのかを忘れない日本人でありたいと思います。それが、震災で命を落とされた、また原発事故で自ら命を絶ち、または苦難に遭った皆さんへの鎮魂やお見舞いになると信じています。読者の皆さん、どうぞ、「怖い」という心情だけではなく、起きた事実を直視し、また恐怖から逃げようとするだけではなく、お互いにお互いを思いやる気持ちをもう一度思い出してください。テロリストが狙うのは恐怖と分断の気持ちを喚起させることです。テロにも事故にも負けないために、内側でいがみ合い、非難し合うことをやめましょう。また芸能ゴシップに逃げている場合でもありません。それが、日本人に今必要とされていることなのです。
最後になりましたが、東日本大震災によって命を失われたすべての皆さまに心より哀悼の意を捧げ、被災された皆さまにお見舞いを申し上げます。皆さまの苦難は、決して忘れず、生涯をかけて生かしてまいります。
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