季節が移り替わり、気温もかなり高くなってきました。それとともに、店先で目にする野菜も色とりどりで目に鮮やかですね。
さて、「ズッキーニ」という野菜がありますよね。どなたも、一度は食べたことがあると思います。瓜のような形ですが、あれはなんと、かぼちゃの仲間だそうです。繊維の固さ加減と薄っすらと漂う香りは、確かにかぼちゃを思わせるものです。実は、私はこのズッキーニの存在の意味がわかりませんでした。淡白な味わいは、他のものといっしょに加熱すると一気に存在感が薄れます。この世になくてもいい野菜……と、ずっと思ってきました。
そのように、かわいそうな存在だった私のなかでのズッキーニ。その概念があるときコロッと変わったのであります。
ズッキーニにはオリーブオイルが必須
私は、イタリア料理修行で、農家民宿をあちこち転々としておりました。そのある一軒でのことでした。
農家民宿の食事は、基本的に自分たちが食べる料理を宿泊者にふるまいます。ある日、収穫すべき時期を逃して巨大化した普通の大きさの3倍にも4倍にもなってしまったズッキーニを、大量に台所に持ち込み、民宿の奥さんがズッキーニだけで煮物を作りました。
大きめにザクザク切ったものに、これでもか!という量のオリーブオイルを入れ、塩をざばっと入れ、にんにくのつぶしたものを放り入れ、水などは一切入れず蓋をして火をつけました。たまに木べらでかき混ぜはしましたが、あとは溶ける寸前まで煮てできあがり。
メイン料理の付け合わせとして、鉢にどんと盛りつけ、お客さんの前に出されたのを見て、
「こんなものをお客さんに出すなんて。みすぼらしい」……と、心のなかで思ったのをよく覚えています。しかし、その思いは、すぐに打ち消されました。
「これだけの材料で、なぜこんなにおいしいの?」
ズッキーニにも味がある、しかも、かなり濃厚な味があることがわかった瞬間でした。オリーブオイルと共によく加熱することで、味わいがはっきりとすることがわかりました。
出汁を使わない家庭料理で野菜のうまみが味わえるのは本物のオリーブオイルだから
レストランのイタリア料理は、きちんと出汁がとられたものが提供されます。
野菜だけでつくるパスタなどもあまりありません。
肉や出汁、ところによってはスープブイヨンの素などを入れて、味を調えるところもあります。
しかし、家庭ではそういうものは使わず、野菜だけでつくる料理がたくさんあるのです。
私はオリーブ生産農家の民宿ばかりで料理修行をしたので、真っ当なエキストラバージンオイルがふんだんにあり、どの農家民宿も、野菜料理にたっぷり加え、加熱し、野菜のうまみ、野菜の味がしっかり味わえる料理をたくさん見て味わってきました。
イタリアに渡って日本でオリーブオイルを輸入販売し、イタリアに関わり続けて20年が経ちます。
しかし、本物のオリーブオイルと野菜を、加熱、または生で合わせると、どうおいしくなるか?をご存じの方は、まだまだ少数派です。
「オリーブオイルの素材を引き出す力」を知ることは、素材そのものの味わいを知ることにもつながります。
野菜と塩とオリーブオイルだけで、それがわかるのです。
それは、本物のオリーブオイルで調理するからこそなのです。
その醍醐味を、一人でも多くの方に、ぜひ、味わっていただきたいと思っています。
アサクラ 代表
朝倉 玲子
(あさくら れいこ)
一般企業、有機農業に携わった後、イタリアに滞在し有機農家民宿やミシュラン三ツ星レストランにて料理修業。オリーブオイル鑑定技能講座で学び、オリーブオイルの素晴らしさに開眼。本物のシングルエステートを探し、エキストラバージン・オルチョサンニータと出会い、故郷会津若松に戻り輸入開始。オリーブオイルの良さと使い方を伝えている。
http://www.orcio.jp