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GNHの国からブータン人にききました

国際事業部 ブータン駐在員

松尾 茜 (まつお あかね)

東京の大手旅行会社に5年間勤務した後、2012年よりブータン王国の首都ティンプー在住。ブータンの持続可能な観光開発事業に携わっている。地域固有の自然や文化、昔ながらの人々の生活を守りながら、ゆるやかに交流人口を増やし、地域経済を、訪れた人の心身を、着実に豊かにしていくような観光を、世界各地で促進していくことがライフワーク。

祈るとき、何を考えていますか?

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ブータン人にとっての「祈り」

仏教への信仰が非常に厚いブータンの人々にとって、「祈る」という行為は、とても身近なものです。
農家のみなさんが一番お金をかけるお部屋は、仏間。
毎日必ず、朝一番に仏間へ行き、器の聖水を入れ替え、バターランプに火を灯し、祈りを捧げます。
都市部のアパートに住む人々も、部屋の一角に仏壇コーナーを設けていることがほとんどです。
ちなみに、チベット仏教における輪廻転生を信じるブータンの人々は、仏壇にご先祖様を祀ることは無く、お釈迦さまや偉い僧侶の、仏像や写真を飾っています。

「祈り」は学校教育にも取り入れられています。
毎朝の朝礼で児童たちは必ず1分間の瞑想をするのです。
朝一番に祈りを捧げることで、授業中の集中力が高まるという調査結果も出ているとのこと。
では、ブータン人のみなさんは、祈るとき一体何を考えているのでしょうか?

 

すべての生きとしいけるもの

毎朝、必ず朝礼で祈りを捧げる子どもたち(© ブータン政府観光局)

 

質問をしたほとんどの方が真っ先に答えたフレーズは、「生きとし生けるものすべてが、災いから解き放たれ、幸せになりますように」。
ブータンの人々は、仏壇に祈りを捧げるとき、お経を唱えながら、まず第一に、「すべての生きとしいけるもの」に祈りを捧げるのです。
自分のことや家族のことは、二の次。
まさに、仏教における「利他の心」……自分だけの利益を考えるのではなく、自己犠牲を払ってでも相手に尽くそうという、美しい心の表れといえます。
毎朝このような祈りを捧げて1日がスタートするのですから、ブータンの人々が、他人に対してのみならず、動物や植物に対して優しいのも納得です。
ブータン人に菜食主義者(ベジタリアン)が多いのも、このような仏教思想が大きく影響しています。

 

息をのむほど美しい農家の仏壇

そして興味深いのが、この仏教の考え方が、環境保全にも繋がっていること。
国土の7割以上が森林に覆われているブータンですが、憲法に「森林被覆率は6割以上を保持しなければならない」と記載されているのみならず、国民のみなさん一人ひとりが、心から自然を愛しているのです。
切り花や川釣りを避け、野犬や田畑を荒らす野獣でさえも殺処分しない慣習が根強く、仏教思想に基づく行為が、自然と環境保全に結びついていることが、よくわかります。
でももちろん、「すべての生きとし生けるもの」に対してお祈りした後は、ちゃんと自分自身のお願いごともします。
「試験に合格しますように」「アーチェリー(ブータンの国技)の試合に勝てますように」など、勝負ごとはついつい神頼みしてしまうことは、私たち日本人とも共通しているようです。
それがまた“人間らしく”、ついこちらも笑みがこぼれてしまいます。
みなさんも、ふとした時に“マインドフル”になることを意識し、自分以外の人や動植物に思いをはせ、幸せを祈ってみてはいかがでしょうか。
自然と、心にゆとりが生まれてくるかもしれません。

 

国際事業部 ブータン駐在員
松尾 茜(まつお あかね)

東京の大手旅行会社に5年間勤務した後、2012年よりブータン王国の首都ティンプー在住。ブータンの持続可能な観光開発事業に携わっている。地域固有の自然や文化、昔ながらの人々の生活を守りながら、ゆるやかに交流人口を増やし、地域経済を、訪れた人の心身を、着実に豊かにしていくような観光を、世界各地で促進していくことがライフワーク。

- GNHの国からブータン人にききました - 2017年8月発刊 vol.119

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