一月末にT・コリン・キャンベル博士の三冊目の著書『WHOLE』を監訳・上梓しました。T・コリン・キャンベル博士は一冊目の著書『The China Study』で、健康を獲得・維持・増進するためになにを食べるべきなのかを解説しています。その結論を短く説明するとPBWF(プラントベースホールフード:植物性の食材を可能な限り精製加工しないで食べる)となります。『WHOLE』は、「リダクショニズム(還元主義)」によるさまざまな弊害について説明しています。リダクショニズムとは、パーツを調べることで全体を理解しようとする考え方で、科学的手法として一般的です。食べ物についても、全体としての栄養より含まれる個々の栄養素について語られる傾向があります。『WHOLE』は、「栄養はホーリズム(全体論)で語らなければならない」と強調しています。ホーリズムは、システム全体はそれぞれの部分の総和以上のもので、部分をバラバラに理解しても全体は理解できないという考え方です。部分の理解だけでシステム全体が理解できたと信じてしまう還元主義と対義させ、全体論と訳すこともあります。
リダクショニズムとホーリズム
病気の多くはさまざまな栄養素が関連し合う無数のメカニズムによって引き起こされますが、現在科学的に解明されている栄養素のメカニズムは、実際に私たちの身体のなかで起こっている現象のごくわずかにしかすぎません。病気や不調の原因が特定の栄養素の不足であったとしても、その栄養素の摂取不足によるものではなく、身体がうまく機能していないことにより、栄養を利用できていないという可能性もあります。そのような場合、身体のどこがうまく機能していないのかを考え、対処しなければ根治は難しいでしょう。
栄養素が腸から血液中に吸収され細胞に取り込まれて利用される割合を「バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)」といいます。この数値は、同時に摂取した栄養素によって大きく増減します。たとえば、鉄のバイオアベイラビリティはカルシウムと一緒に摂ると400%減少しますが、β‐カロチンなどのカロテノイドと摂ると300%上昇します。また、天然の食品は食品成分表の記載通りの成分を含んでいるわけではないので、摂取栄養素をそれぞれ把握することなどできないのです。
リンゴに含まれるすべての栄養素をサプリメントなどで個々に摂取しても、リンゴを丸ごと食べたときのような効果はありません。むしろ栄養素を単体で摂取した場合、人体に悪影響が出るという研究が複数知られています。特定の栄養素だけで構成されたサプリメントは食品とはいえませんし、精製しつくした白い小麦粉や砂糖、食塩、油なども同じです。食べ物を丸ごと頂くホールフードという食事法は、栄養学の観点で非常に重要です。
がんやあらゆる生活習慣病を予防する最先端の栄養学は、実はごくシンプルで誰でも実践できるのです。簡単であるがゆえに、利己的な考え方や利権が蔓延する医学、メディア、製薬会社などの企業により、人々に知れ渡ることが意図的に妨げられることがあるとしたら、こんなに大きな損失はありません。日本の皆様に知っていただきたい強い信念をもって『WHOLE』の翻訳をおこないました。読んでいただき、内容をご自分で判断してみてください。そして多くの方に紹介していただければこんなにうれしいことはありません。
『WHOLE~がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学』
発行:ユサブル
著者:T.コリン.キャンベル
監修:鈴木晴恵
訳:丸山清志
2,500円(税別)