「災難に遭う時節には災難に遭うがよく候、死ぬ時節には死ぬがよく候、是はこれ災難をのがるる妙法にて候」。
江戸時代の禅僧、良寛和尚の言葉です。災難に遭ってしまうことはあるけれど、起こってしまった災難をなしにはできない。災難だからと慌てて対処を誤り、災難をさらに大きくしてしまうかもしれないということです。起こったことは受け止め、落ちついて行動することの大切さが説かれていますね。
干支を紐解く
今年の干支である「辛丑(かのとうし)」について考えてみます。十干では「辛(かのと)」、十二支では「丑(うし)」となります。
辛の字は「辛い」とも読むとおり、社会が安泰とは言いがたい年回りです。十干とは10年に一度の巡りで、前回の「辛」の2011年には、東日本大震災が起こり、その後の計画停電・節電など日本社会全体に大きな影響がありました。さらにもう10年さかのぼった2001年には、アメリカで同時多発テロがあり、私たちの社会生活においては狂牛病問題が起こり、食の安全が問われる大きなきっかけとなりました。
もしかしたら不安定な状況のなかでの「丑」の年は、牛歩のごとく着実に歩を進めていくのが「辛丑」の特徴と考えられます。
また、「丑」に「糸」がつくと「紐(ひも)」となります。人と人とのつながり、ご縁に感謝していくことが大切な一年となることでしょう。
風の時代?
最近やたらと「風の時代が始まったね」と耳にします。そこで「向かい風もあるよ」などと言うと、黙られてしまいます。あまり言うと嫌われそうなので、控えようかと思っているところです。
風には追い風も向かい風も横風もあって、風がどの向きに吹くかはわからないものです。それでも動く必要があるときには動かなければなりません。向かい風かもしれないけれど、覚悟を決めて動き始めてみる。そのうちに追い風が吹いて、自分に味方してくれるときがくるかもしれない。状況に振り回されず、自分なりの歩みを進めていく。その覚悟を問われているのかもしれません。
風に関連してもうひとつ大切なことは柔軟性。柳の木のように、風が吹けばそれになびくしなやかさがないと、どんなにがんばっても強風で折れてしまうこともある。その意味で、頑なな心は考えものです。動かずにじっとしていても、周りで風が吹けば体温を奪われ、やがては疲弊してしまいかねません。
そうはいうものの、どう動いていけばいいのか。少し振り返ってみて、たとえば昨年に考えていたことはないでしょうか。ちょうど一年前に「今年はこれをやってみよう」と考えていたことがあったのに、コロナの騒動のなかで優先順位が後回しになり、そのまま埋もれてしまっているようなことはないでしょうか。いま、仕事が減って不安だとしても、だからこそ過去を振り返ってみる時間ができたと受け止めてみるとよいでしょう。
いつもとは違う環境にいるほうが、考えがまとまることもあります。ちょっと外に出てみたり、まだ人の少ない早朝などに、いつもは通らない道を歩いてみたりする。そのなかで気づくこともあるはずです。ちょっとした発見もあるかもしれません。コロナ禍で閉めていく店のことばかりが話題になるなか、いつもと違う道を歩いてみると、新しくオープンしたお店を見つけることもあるでしょう。
そのうちに自身を振り返ることができたら、自分を信頼していいのではないでしょうか。振り返れることがあるのは、自分なりに考えて行動してきた結果なのですから。
災難を鏡ととらえて、これまでとこれからを考えるきっかけにしたいものです。