先月号のコラムでは、「熊本丸刈り訴訟」という公立中学校の校則に関する裁判について、ご紹介しました。
熊本丸刈り訴訟は、昭和60年に判決が言い渡されている古い裁判例でしたが、今月号では、比較的最近の校則に関する裁判例―「大阪黒染め訴訟」などと呼ばれる裁判―である大阪地方裁判所令和3年2月16日判決をご紹介したいと思います。
事案の概要と争点
この裁判の舞台となった公立高校には、「頭髪は清潔な印象を与えるよう心がけること。ジェル等の使用やツーブロック等特異な髪型やパーマ・染髪・脱色・エクステは禁止する。また、アイロンやドライヤー等による変色も禁止する。カチューシャ、ヘアバンド等も禁止する」という内容の校則がありました。
また、頭髪検査の結果、この校則に違反している場合には、原則として4日以内に手直しをしなければならないなどとする生徒指導方針も定められていました。
訴訟を提起したのは、この高校に在籍していた女子生徒でした。訴えの内容は、頭髪の指導として繰り返し頭髪の黒染めを強要され、その結果、不登校となり、さらに進級後に生徒名簿から氏名を削除されたり、教室から座席を撤去されたりするなどしたことにより著しい精神的苦痛が生じたというものでした。
この事案の争点は複数ありますが、校則と直接関係があるのは、染髪などを禁止する校則と生徒指導方針の違法性の有無です。
裁判所の判断
裁判所は、まず、当該学校について、「その設置目的を達成するために必要な事項を校則等によって一方的に制定し、これによって生徒を規律する包括的権能を有しており、生徒においても、当該学校において教育を受ける限り、かかる規律に服することを義務付けられるものと認められる」としました。
そして、「校則等の制定について、上記の包括的権能に基づく裁量が認められ、校則等が学校教育に係る正当な目的のために定められたものであって、その内容が社会通念に照らして合理的なものである場合には、裁量の範囲内のものとして違法とはいえないと解するのが相当である」としました。
そのうえで、この学校の開校当時、問題行動に走る生徒が多く、その改善が求められていた状況にあったことや、問題となる校則は、生徒に対して学習や運動等に注力させ、非行行動を防止するという正当な教育目的によるものであること、これによる頭髪の制約も一定の範囲にとどまっていることなどを指摘しました。
そして、結論として、頭髪を規制するこの校則は、「学校教育に係る正当な目的のために定められ、社会通念に照らして合理的な内容の規律である」として、校則も生徒指導方針も、「本件高校の有する学校教育をおこなうに際して生徒を規律する包括的権能に基づく裁量の範囲を逸脱した違法なものということはできない」と判断しました。
なお、学校が、生徒の進級後に生徒名簿から氏名を削除したり、教室から座席を撤去したりした措置については、違法であると判断されました。
判決に対する疑問
この判決は、学校が、生徒を規律するために一方的に校則を制定することができ、かつ、生徒はこれに服することが義務付けられるとしています。
しかし、本来学校は、生徒の心身の安全や成長に配慮する義務を負う立場でもあります。したがって、学校が一方的に生徒を規律する権能を有するとの判断には、疑問があります。