自分の心のなかをよく観察していると、常に独り言をつぶやいていることに気づきます。「もっと〜してくれたらいいのに」「なんで〜するんだろう」「あれがよくなかった、失敗だった」「ちゃんと〜しておけば……」などの心のつぶやきは、自分に対するダメだしや誰か(世間)に対する文句です。それらは現状を否定する言葉です。こういう独り言をつぶやいているとき、体は少し緊張しています。脳は問題を認識すると、なんとかしなければとアドレナリンやノルアドレナリンを分泌し、闘争か逃走の準備を始めます。血管が収縮し、血流が悪化します。慢性的にこの状況が続くと、血管が収縮している部分が冷えてきて、さらに進むと体温が低下していきます。体温の低下は免疫力の低下に繋がり、病気にかかりやすくなったり、治りにくくなったりします。体温を上げるためには、リラックスが必要で、そのためには心のなかの独り言を減らす必要があります。しかし、簡単には考えない状態にはなれません。物心がついてから今まで、ずっと心のなかの独り言が続いているので、それが当たり前になっています。患者さんに「考え事をしていませんか?」とお尋ねしても、「特に考え事はしてません」という方がときどきいらっしゃいます。それは考え事が当たり前になりすぎているからです。瞑想が上達すれば無念無想になることもあるようですが、生きている限り、考え事がないことはほぼないと思われます。
自分の考え事に気づくためには、「念仏やマントラを繰り返し唱える」という瞑想をしてみてください。唱える言葉は、家の宗派の念仏やお題目、ご真言、キリスト教ならアーメンなど、自分が唱えやすい言葉を使いましょう。宗教っぽくないほうがよい場合は「ありがとうございます」を繰り返し唱えてみてください。すると、10回前後唱えると雑念が湧いてきます。脳は退屈を嫌うので、同じ言葉を唱えることが苦しくなってきます。雑念が湧いてきたら「それは後で考えることにしよう」と自分に言い聞かせて雑念を手放し、言葉を唱えることに戻りましょう。集中力が続くのは15分から20分程度です。その程度で切り上げましょう。もっとやりたいと思ったら5分ほど休憩してから15分から20分のサイクルで続けましょう。体調や心の状態によっては、すぐに雑念が湧いてくる、雑念から離れられないときもあります。無理せず、時間をあけてまた挑戦してみてください。
実践すれば、いかに心が独り言でいっぱいであったか、気づくことができます。気づくことができれば、心の独り言で緊張が増えないようにする方法があります。心の独り言に気づいた後、「そうだよね、そう思うよね」と自分が思ったことを肯定してあげましょう。「自分なんてダメダメだ」「そうだよね、そう思うよね」といいましょう。自分の考え事を全部肯定してあげるくらいの勢いで「そうだよね、そう思うよね」といってあげましょう。自分を肯定すると緊張は緩みます。
もう一つの方法は、なんでも「ゆっくり丁寧にやる」です。倫理的に正しいことをしましょうとか、良い人になりましょうといっているのではありません。緊張を取って健康になろう、あわよくば若返って美しくなろう、という欲を満たすためにやってみてほしい技です。しかし、忙しいときは頭がいっぱいで、余裕がなくなっています。そういうときほどミスが増えます。「ゆっくり丁寧に」と心のなかでつぶやきながら家事や仕事をしてみましょう。ゆっくり丁寧にしてみても、実際にかかる時間はそれほど変わりませんが、心の独り言が忙しいときは常に意識が未来に向かっています。「ゆっくり丁寧に」を実践しているとき、意識は「今、ここ」にあります。気持ちが穏やかになり、人に優しく接することができます。実践できれば、仕事や家事で蓄積するストレスが減っていることに気づくでしょう。