「同じことでずっと悩んでいる」「一歩踏み出し、前に進みたい」という相談を多く受けるなかで、私が大事にしていることがあります。それは、「視点を変えること」。物の見方が変われば、相談者自身が状況を打開する糸口を見つけることができるからです。
膠着状態から抜け出す
同じ問題で悩んでいるときは、見方が固定化し、状況から抜け出せなくなっています。例えば、対人関係では相手の欠点にばかり気がいきます。すると、どんなに「相手の良いところを見なければ」と思い美点凝視を心がけても、目がいくのは美点ではなく欠点になってしまいます。自分に対する見方も同様で、自己肯定感を高めたいと思っても、粗探しの視点にとらわれると自己否定や自己嫌悪が生まれ、一歩踏み出す勇気を出すのも難しくなります。
一方、視点を柔軟に変えると新たな発見があり、「悪いことばかりではない」と気づきます。これにより、自己理解や他者理解が深まり、対人関係のストレスも軽減されます。また、物事の本質を把握しやすくなるので、問題解決や目標達成もスムーズになります。このように、自分の視点を柔軟に変えることは、自らの力で膠着状態を打破する重要な鍵なのです。
では、固定化しがちな視点を柔軟に変えるにはどんな方法があるでしょうか? さまざまなトレーニングがありますが、私のおすすめは「他者の人生ストーリーを聞くこと」です。意外かもしれませんが、とても有効なのです。
視点が広がる人生ストーリー
他者の人生を知ることは、日ごろは見逃されがちな感情や価値観などの部分に目を向けることになります。
普段、私たちは外見や行動など、表面的な要素に目を奪われがちです。例えば、黄色いバラの花を見ると花びらや色に注目しますが、葉脈に流れる樹液には気づきません。同様に、人の言動や地位、外見に目がいくことが多いですが、感情や価値観など、目に見えない部分は見逃されがちです。
しかし、視点を一歩奥へ向けることで、視点が広がり、その人に対する印象も大きく変化します。このように、他者の人生ストーリーには、視点を変える効果があるのです。私の視点が広がるきっかけになった、友人Y君の人生ストーリーをご紹介します。
Y君はある人物の言動に憤慨していました。あまりの憤慨ぶりで、2年が経っても、彼は私に会うたび、その人物への不平不満や愚痴をぶちまけるほどでした。最初は「そうか、そうか」と私も共感的に聞いていましたが、さすがに2年も一方的に聞かせられ続けて、うんざり。このままでは「不平不満が多い怒りっぽい人」というレッテルをY君に貼り、友人関係を解消したいと思うほど、我慢の限界まできていました。しかし、それは望んでいることではありません。そこで、私は自分の視点を変えることにしました。Y君の発言内容や語気の強さ、険しい表情ではなく、心の奥に視点を向け尋ねました。「本当はどうなれたら良かったの?」
Y君はしょんぼりと肩を落とし、うつむくと、しばしの沈黙が流れました。そして、「本当は相手とわかり合いたかった。だからちゃんと話がしたかった」「悲しかった」と、心の内を初めて語ってくれたのです。それ以降、Y君がその人物への愚痴を口にすることは一度もなく、表情は柔らかくなりました。いまは「相手と心を通わせる」をテーマにコミュニケーションの勉強をしています。
いかがでしたか。読みながら、Y君や、不平不満をこぼし続ける人に対する見方がちょっと変わったのではないでしょうか? 次回から、許可をいただいた方々の人生ストーリーを語っていきます。どのように、あなたの視点が変わるのか、どうぞお楽しみに。