毎年テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアーでは、提携する地雷撤去団体MAGの地雷原を訪問します。今年のスタディツアーも、バッタンバン州カムリエン郡オウ・ダー区マノアハ・カル村の地雷原に、2010年3月4日、10名のツアー参加者とともに訪問しました。かなり整備されてきたものの、まだバッタンバンの地雷原が残る地域は、乾季とはいえ、道がいいとは言えません。地雷原に行く途中も、用意した4WD、4台のうち1台がパンクし、帰りも別の車がパンクしました。気温は日中38度。灼熱の地雷原です。
この地雷原で驚いたのは、村の中を通る道からわずか2m外れたところに、数個の地雷が見つかっていたことです。少し道路を外れていれば、地雷の被害がまた出ていた可能性がありました。この村では1979年から1997年まで戦争がありました。1975年から1979年までは、ポル・ポトを中心とした共産主義勢力、クメール・ルージュ、1979年から1984年までは、ベトナム軍とカンボジア政府軍、そして1985年から1996年まで再びクメール・ルージュの支配地域でした。その当時の激戦地です。内戦が終わり、村に15世帯が住み始めましたのは1997年。現在は116世帯、541人(子ども307人、未亡人11人)が住んでいます。村びとのほとんどが農業、畑仕事をしています。森林を切っていて、11人の地雷・不発弾被害者(地雷被害者6名)が出ました。最初の地雷被害者は1993年、最近の地雷事故は2009年、昨年起きたばかりでした。地雷撤去をする前は、地雷原の中に一軒家があり、人が住んでいましたが、地雷が埋まっていることが分かって、別の場所に避難をしました。地雷の危険は、常に隣合わせだったのです。
MAGの地雷撤去チームは、2009年10月5日から活動を始め、これまでに67個の地雷、25個の不発弾、そして2万5567個の金属片を撤去しました。撤去する予定の地雷原の面積は5万1898?です。この地雷原では、ほとんどが金属探知機を使った手作業での地雷撤去が実施されていますが、一部の場所で土中に多くの金属片が含まれている場所があり、この場所は後で、地雷探知犬を使って撤去するそうです。地雷探知犬は火薬の臭いで地雷を見つけるため、金属片が多くても地雷だけを探し出すので、金属探知機よりも撤去が速いのです。ちなみに土中の金属片や木の根っこ、草木なども障害になるもので、地雷撤去を困難にしています。
この日も午前中、1個の地雷が見つかりました。POM-Zという破砕型対人地雷で、トウモロコシに似ていることから、カンボジア人からは、『トウモロコシ地雷』とも呼ばれています。地面に埋めて使うのではなく、地面に棒を差してその上に地雷を設置し、地雷の上に出ているピンにワイヤーを結び、そのワイヤーを近くの木や枝へ結び付けて仕掛けます。ジャングルの中ではこのワイヤーを認識することが難しく、歩いてきた人がワイヤーを足に引っ掛けると、ピンが抜けて起爆します。その際、地雷の表面につけられた凹凸によって、ちょうどトウモロコシの1粒1粒の種に当たる破片が四方八方へ飛び散るのです。これは、半径150m以内の人を殺傷するほどの威力があります。この日見つかった地雷は、金属探知機を使う前に、地表面を目で観察して、見つかったのですが、すでにワイヤーが無くなっていて、地面に立ててあったであろう地雷は倒れ、半分土の中に埋まっている状態でした。地雷が表面に出ていたり、地表に設置する地雷も、まず観察をして見つかることもあります。
「ズッドーン!!」。この日見つかった地雷の爆破処理が終わりました。200m以上離れたところからでしたが、大地を揺るがすほどの音が、地面から腹の底まで伝わってきました。一瞬遅れて砂煙が舞い上がり、ゆっくり風に流されていきます。MAGのスタッフと村人たちが、「一個の地雷の爆破処理が終わるたびに、また一人の人の命が助かったと思う」と話していたのが印象的でした。
人によって引き起こされた問題は、人の手によって解決されるようになっている…と言う言葉を聞いたことがあります。地雷もまた人間の手によって作られ、人間の手によって埋められたのです。しかも、カンボジアで作られた地雷はほとんどないと言われます。中国製、アメリカ製、旧ソ連製、ベトナム製…地雷の製造国を聞くだけで、このカンボジアの地雷問題がこの国だけの問題だとはとても思えないのです。その地雷は今こうして、地雷撤去団体の作業員の手によって、1個ずつ確実に取り除かれ、安心して生活できる社会を取り戻しています。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 |