食材を買いにスーパーに行くと、外国産牛と国産牛のお肉が並んでいます。
つい、安さに目を眩ませがちなのですが、外国から輸入したお肉って良くないと聞いて……。
国産のものと、どう違うのですか? (神奈川市・引っ越ししたて妻)
A.安い肉の牛はどんな風にできるのかに目を向ける
答える人 岸江 治次
輸入肉は確かに安いですが、それなりの理由があります。アメリカからの輸入肉を中心に考えてみましょう。ポイントは3点。1つ目は、牛の飼い方です。「牛を飼う」と聞くと、広い牧場でゆっくり歩く牛を想像するかもしれません。しかし、お肉として流通している牛が、牧歌的に作られることはありません。体育館の隅から隅まで牛がぎゅうぎゅう詰めになっているイメージをしてみてください。牛舎に何百頭の牛が詰めこまれているのです。また、牛に草を食べさせること自体、今はほぼありません。代わりに与えているものは、とうもろこし、小麦、大豆、といった穀物。本来、草を食べる生き物である牛が、穀物を食べること自体が、おかしなことです。牛の胃は4つあり腸も長く、もともと草食である身体的特徴があらわれています。牛の歯を見てみると、さらに理解が深まるはずです。
人間の歯は三種類。草・野菜を噛む門歯と、肉を切り裂く犬歯、さらに穀物をすりつぶす臼歯。 牛は門歯、いわゆる草を噛む歯しかありません。草のみを食べていても、大きな体になっていくのです。しかし、早く大きく成長させ、たくさんのお肉を取りたいがために、穀物を餌に使うのが現状。なかでも、一番よく使われるのがとうもろこし。とうもろこしをたくさん生産するために、農薬がたくさん撒かれています。また、牛が大きく早く育つよう、遺伝子組み換えした品種を使っているのです。
アメリカは、自国に入ってくる食品へのチェックはとても厳しいのですが、外国に出すときは、安全面での基準が大変甘い傾向があります。このように、国内向けには遺伝子組み換えがあまりない反面、輸出分に関しては、遠慮なく遺伝子組み換えを使っています。そうすることにより餌が安く済むのです。
2つ目は、肉の加工の経緯です。近代的な設備の工場で、まるで工業製品を作るかのように自動的に作られます。牛は無理やり種付けをされた後に、帝王切開で取り出されます。狭い牛舎で、 餌を与えられるため、ストレスがかかり病気になりがちです。しかし、病気になると、お肉として使えないため、予防のためのワクチンを打ちます。薬で病気をごまかしているのです。また、早く大きくなってもらわないといけないので、成長ホルモンを与えます。ホルモン剤が入ったお肉をたくさん食べた女性が出産したとき、生まれたときから、赤ちゃんのおっぱいが大きかったという事例がアメリカで話題になりました。このように、手間暇をかけずに作るため、加工代が安くなり、大幅にコストダウンされているのです。
最後は、人件費。お肉の生産に従事している人件費を思い切り安くしています。特にアメリカは、メキシコからの不法移民を、安い賃金で雇っているといわれています。
このような過程を経ているため、日本国内で作っているお肉に比べると、格段に安いものができるのは当然のこと。牛自体の品種が、早く大きくなるように作られているので、日本の和牛のように、霜降りがついているお肉はあまりありません。しかし最近、技術が進み、品種改良した牛で、日本人向けに霜降りがついたお肉が開発されています。
牛と同様、鳥も豚も似たような工程で作られています。そういったことを紹介した映画もあります。一番有名なのは『いのちの食べかた』。ドイツのドキュメンタリー映画です。牛や豚や鳥、それぞれ種付けから餌の与え方から殺し方までが映し出されます。いかに私たちは日常的に命を食べているかということがよくわかります。ほかにも、肉の大量生産に関する問題提起をしている『フード・インク』、ファーストフードが実際どのように作られて売られているかを赤裸々に語っている『ファーストフード・ネイション』という映画があります。
現実を知ることも非常に大事ですので、気になる方は、ぜひ一度、ご覧ください。安いものには、やはりなんらかの理由があります。私たちの口に運ぶお肉について、背景を知ったうえで、選んでいけると良いですね。