伝統的な和食は健康に良いと聞きますが、塩分の取りすぎが気になります。日頃の食事を和食中心にする場合、味噌や醤油、漬物など、塩分を含む調味料や食べ物の量を減らしたほうが良いのでしょうか。(高血圧が心配な会社員)
A.本物の塩と伝統的な和食なら心配なし。
答える人 お客様コンサルティングセクション 岸江 治次
塩分が気になるのは、塩分の取りすぎで血圧が高くなるなど、体への悪影響を心配されているのだと思います。しかし、そもそも塩分を取ることで血圧が高くなり、それが体に良くないという話にきちんとした根拠はありません。なぜこの話が浸透したかというと、1950年、日本の戦後復興の時代に、アメリカの医師が日本人の健康状態を全国的に調査したことがきっかけです。日本では、九州など南の地方では甘い味つけの食事が主流ですが、北にいくほど塩辛い味つけになります。当時、たまたま、北にいくほど血圧が高い人が多かったことから、塩分を取ると血圧が上がり、体に良くないという話が定着してしまったんです。
和食の基本は、味噌や醤油、漬物などの発酵食品です。それらすべてに塩が使われています。食事には風土が影響します。たとえば、アラスカのような植物がまったく育たない地域では、肉が主食です。欧米では畜産が発達しています。日本では、昔から肉をあまり食べず、穀物と野菜が食事の中心です。風土に合った食事が、その土地の人々を健康にします。こういった風土と食事スタイルの違いによって、適切な塩分量と塩分の取り方は異なります。日本人にとっては、和食というスタイルと、そこで使われる塩分が適しているのです。
マクロビオティックの陰陽の考え方では、植物は陰性で、動物は陽性です。人間も陽性で、陰性の植物を食べます。その際、火と塩という陽性のもので、陰性の植物を陽性に調理します。火と塩は、人類の長い歴史のなかで、ずっと調理に使われてきました。伝統的な和食は、火と塩でバランスを取ることに優れています。その和食で、長い間、日本人の健康は保たれてきました。だから、欧米で平均値とされる塩分と、和食の塩分量を比較しても意味がありません。
さらに、適切な塩分量というのは、人によっても異なります。人間には個性があり、身長も体重も体格も人によって異なるように、血圧の許容範囲も人によって異なります。血圧が高くても、あるいは血圧が低くても、元気な方もたくさんいます。血圧の高さは、そこまで気にする必要がないものです。血圧が高いことを気にされる場合、脳の血管が切れてしまうことを心配されている方が多いと思います。しかし、血管を切れさせないためには、血圧よりも、血管の柔軟性が大切です。血管の柔軟性を保つには、いつもお伝えしているように、米、できれば玄米を主食に、海藻や野菜を食べることをおすすめします。
自分に合った量の塩分を取ることに加えて、どういう塩を選ぶかというのもポイントです。体に必要なのは、海水から伝統的な方法で作られた、ミネラルを含む「本物の塩」です。一口に「塩」といっても、ミネラルのあるなしで、体に与える影響が違うことが、今の科学でも明らかにされてきています。
塩分の取りすぎよりも、塩分が不足するほうが体に大きな影響があります。塩分が不足すると、まず、新陳代謝が悪くなって、体温上昇ができなかったり、ケガの治りが悪くなったりします。また、心臓が弱り、腎臓にも悪影響が出ます。腎臓は体にいるものといらないものを選別し、老廃物を排出する役割があります。塩分を取りすぎても、腎臓が正常であれば余分な塩分を排出してくれます。しかし塩分が不足すると、腎臓は塩分を戻そうとして、いらないものを排出する働きをしなくなってしまうのです。さらに、塩分不足は食欲不振を招きます。食欲がなくなると、胃腸が弱ります。東洋医学では、胃腸が弱るとそれ以外の臓器も弱っていくとされ、体全体に影響が出ます。他にも、塩分が不足すると倦怠感、脱力感、筋肉のけいれん、鬱傾向などの望ましくない影響も出てきます。
人間の健康と塩は、切っても切れない関係というのは、世界中で知られています。たとえば、新約聖書には「地の塩」という記述があります。日本では、神棚にお供えするのは水と塩と米ですよね。それだけ、塩というのは重要な存在なのです。