医師として長年美容医療とレーザー治療をおこなってきましたが、3・11をきっかけに食を見直すようになり、2013年に健康的な食を体験いただけるヴィーガン&オーガニックカフェ「CHOICE」をオープンさせました。現在も積極的に臨床をおこなっていますが、徐々に食と健康の関係について啓蒙する機会が増え、CHOICEのオーナー&プロデューサーとしての内容が濃いものになってきています。
昨年はヴィーガンという言葉がこんなに一般に浸透した一年はないと感じました。CHOICEをオープンしたころは、ヴィーガンはおろかベジタリアンという言葉さえも十分知られていませんでした。東京オリンピックの影響もあるのでしょうが、今ではかなりの人達がヴィーガンの意味を知っています。
先日、ゴールデンタイムのバラエティー番組でベジタリアンとヴィーガンの違いを解説していました。番組ではベジタリアンやヴィーガンになるきっかけは動物愛護や健康志向の場合が多いけれど、もう一つの大きな要素として環境保全を目的とする人達が増えていることにもふれていました。省エネなどを意識して地球温暖化に歯止めをかける動きは世界中に見られますが、私たちの食が環境に大きな影響を与えていることはご存じでしょうか。動物ベースの食べ物の大量消費は土壌の劣化、地下水の汚染、森林破壊、深層部水層の枯渇、そして地球温暖化に影響を与えます。
地球温暖化に影響する畜産
温室効果ガスとは温室効果を示す気体の総称です。主な温室効果ガスには二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンなどがあります。最も多い割合を占めるのは二酸化炭素で、次に多いのがメタンです。二酸化炭素の温室効果力はそれほど高くありませんが、量が多いため温暖化への影響が大きくあります。メタンは温室効果ガス全体の16%ですが、温室効果が高く二酸化炭素の25倍以上あります。大気中のメタンの量を25年の期間で計算すると、地球温暖化に影響する力は二酸化炭素の72倍になるとされています。つまりメタンガスの排出を抑えることができれば、大変有効な地球温暖化防止対策になるのです。メタンは枯れた植物の分解過程や廃棄物の埋め立て処分場から発生しますが、家畜から発生する量も無視できません。
家畜の胃袋に存在する微生物が餌を発酵分解し、発酵の副産物として水素が発生、その水素を常在する微生物がメタンに変換し、最終的にげっぷやおならとなって大気に放出されます。家畜のなかでも特に牛から発せられるメタンの量が多く、牛1頭が発するメタンガスの量は1日160~320リットルにものぼります。地球上には約15億頭の牛がいて、そのほとんどが肉牛や乳牛として飼育されています。肉と乳製品の消費を減らせば効果的な地球温暖化対策になるはずですが、このことはあまり一般に知られていません。テレビや雑誌の大きなスポンサーが畜産、酪農業界であることに配慮されているのでしょうか? もしそうだとしたら、私たち末端の消費者が知る努力をし、判断して買わない意志を示さなければ、肉の生産は減らないでしょうか?
今号は1月30日に出版された『WHOLE』の第12章「リダクショニズムの社会政策」の地球温暖化の部分を抜粋して執筆しました。次号以降、食肉と環境の別の問題についてお話しできればと思います。
『WHOLE~がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学』
発行:ユサブル
著者:T.コリン.キャンベル
監修:鈴木晴恵
訳:丸山清志
2,500円(税別)