このコラムでは、私が推奨する食事法「プラントベースホールフード」(PBWF:植物性の食材をなるべく精製加工することなく食べる)に関連するテーマを中心に寄稿してきましたが、私の本業は形成外科医です。形成外科は皮膚表面をきれいにする診療科でもあり、クリニックでも多岐にわたるレーザー装置を揃えてさまざまなお悩みに対応しています。しかし、私は「外科医」ですので手前味噌ですが手術が得意です。今月は当院の手術で一番症例が多い「眼瞼下垂症」について書きます。眼瞼下垂症とは上瞼が挙がりづらく、開きにくくなる状態を指します。瞼が挙がりづらいのでがんばって瞼を開けなければならず、その結果さまざまな症状が現れます。
「瞼が重い」「目とその周りが疲れる」「目の奥や額、こめかみが痛い」「肩や首が凝る」「眠そうとか疲れているとか不機嫌に見られる」「額にシワが現れてきた」「頭痛」「歯を食いしばってあごがだるい」「奥歯がすり減る」「顎関節症」「疲れやすい」など、さらにはうつ症状まで現れることもありますが、開きにくい瞼が原因とは思い当たらない症状も多くないでしょうか。
このような症状で苦しめられることがあっても他科を受診したり、市販薬を利用したり、マッサージをしてみたりして、根本原因の治療方法が形成外科を訪れることだとは思わない人がほとんどです。救急車で運ばれるほどの頭痛に見舞われたのに病院で原因を特定してもらえず、多くの診療科を回った挙げ句、当院に辿り着かれた患者様に眼瞼下垂症の治療をしたところ、頭痛がまったくおこらなくなったという経験もあります。このように悩んでいた症状が嘘のように改善することは非常に多いです。
加齢が原因とは限らない
瞼を持ち上げる筋肉である眼瞼挙筋が瞼に付着するあたりは腱膜という膜状組織になっていて、目を開けるときの眼瞼挙筋の縮みを瞼に伝えています。ハードコンタクトレンズをはずすときに、目尻を横に強く引いたり、アトピー性皮膚炎や花粉症で瞼をこすったり、過度のアイメークやメークを落とすときに瞼を擦ったりなどを毎日繰り返すことにより、挙筋腱膜が薄くなり、のびて緩んでしまった結果、筋力が十分に伝わらず瞼が開きにくくなります。眼瞼挙筋の力で瞼を持ち上げられない分、額の筋肉を使って瞼を開けようとするので額に皺ができます。十代前半でも手術適応があるほどの眼瞼下垂症の方もいらっしゃいます。
加齢・老化が原因で瞼が開きにくくなる症状を総称して「老人性眼瞼下垂(加齢性眼瞼下垂)」と呼びますが、老人性眼瞼下垂は、単一の病態ではないことが多く、腱膜性眼瞼下垂と眼瞼皮膚弛緩症(まぶたの皮膚のたるみ)の両方を併発していることが大多数です。眼瞼下垂症で当院を受診される方の多くは老人性眼瞼下垂や若い人も含めた腱膜性眼瞼下垂ですが症例は多くないですが、生まれつき認められる先天性眼瞼下垂症の患者様もいらっしゃいます。
基本的な治療法は手術となる
眼瞼下垂症の治療は延びた腱膜を縫い縮める手術をおこないます。手術をおこなえば二重瞼に仕上げることができますが、元の瞼の状態を変えないように希望される場合もあります。診察時に希望を伺うことはもちろんですが、手術は局所麻酔でおこないますので術中にも仕上がりを確認していただきながらおこなうことができます。特別な術式になりますが瞼の縁を切開し、手術跡が二重ラインに残らない方法でおこなうことも可能です(瞼縁切開法)。
一般的な眼瞼下垂症手術は保険適応で入院の必要もありません。一見して瞼の下垂がない場合でも検査の結果眼瞼下垂症と診断する場合もありますので頭痛などの症状で困っている方は一度相談してみてください。