今月号のテーマはエストロゲン優位(過剰)と対処法です。女性の生理に大きな役割を果たしているホルモンには卵巣で作られているエストロゲンとプロゲステロンがあります。生理が始まり約2週間後に排卵が起こるまでに卵胞から分泌されるのがエストロゲン、卵胞が排卵後に黄体になり分泌するのがプロゲステロンです。問題は、生理があっても排卵がない場合で、無排卵月経では黄体ができないために黄体ホルモンであるプロゲステロンが作られずエストロゲン過剰になります。
「エストロゲン」とは一つのホルモンの名称ではなく、エストロン、エストラジオール、エストリオールの総称で、この3つのホルモンはそれぞれ異なる働きをします。エストロゲンは生理がある女性では卵巣でプロゲステロンやテストステロン、アンドロゲンから作られ、閉経後は主に体脂肪のなかで、アンドロゲンを変換して作られます。
エストロゲンは思春期の少女の膣や子宮、卵管の成長発達といった変化を促します。胸に膨らみをもたせ、脂肪の配分に貢献し、骨の成長にも寄与します。成熟した女性においては、肌の柔らかさや膣の潤滑を助け、骨密度を保ち、脳の機能にも重要な役割を果たしています。そして、もちろん、女性の生理サイクルを維持し、妊娠や出産にも欠かせません。
プロゲステロンの重要な働きはエストロゲンの働きをコントロールすることです。エストロゲンが正常値でもバランスを取ってくれるプロゲステロンが不足していれば「エストロゲン優勢」と呼ばれる状態になり、体にとって有害なものとなります。
エストロゲン優勢で起こる症状には、月経前症候群、骨粗鬆症、脳卒中、老化促進、うつ、不安、疲労、不眠、イライラ、片頭痛、ブレインフォグ、認知症、アレルギー、自己免疫疾患、乳腺症、乳がん、胆のう疾患、低血糖症、血栓、不妊症、流産、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮がん、性欲減退、むくみ、脂肪増加、抜毛などが挙げられます。
外因性ホルモン
植物が生合成する物質でヒトの体内でエストロゲン様の働きを持つ物質をフィト(植物)エストロゲンといいます。体内でつくられるエストロゲンより効果は弱いものの、体内でエストロゲン・レセプターをエストロゲンと奪い合うために体内のエストロゲンが過剰な場合にはよい効果を発揮します。
プラスチックや殺虫剤、肉などの食品に含まれる合成ホルモン、アセトン(除光液)、PCB(ポリ塩化ビフェニル)などの工業汚染物を「環境ホルモン」と呼びます。これらは非常に強いエストロゲン作用をもちますが、極めて毒性が強く、体から除去するのも難しく、組織内に蓄積する傾向があります。
安全なプロゲステロン補充方法
更年期では低下するエストロゲン値に注目する傾向があり、実際エストロゲンレベルは二分の一や三分の一に低下するのですが、プロゲステロンレベルがほとんどゼロにまで低下することにはあまり注目されません。何度も触れますが、エストロゲンとプロゲステロンはバランスが大切ですので、本当にエストロゲンレベルが低下している稀なケースを除き、エストロゲンよりプロゲステロンを補充するべきなのです。
人工プロゲスチンが危険であることは2月号で述べた通りです。プロゲステロンを補充する場合、ヒトが体内で合成するのと同じ天然のプロゲステロンを用いるべきです。
プロゲステロン補充療法は更年期だけでなく前更年期、無排卵、子宮に関わる疾患などに活用しますが、試してみたい場合は効能を周知している施設で指導を受けることを推奨しています。安全で効果的なプロゲステロンクリームの使い方は、当院外来でも指導しています。