きのくに子どもの村通信より 学校づくりのこぼれ話(2)休校施設払い下げ交渉
学校法人きのくに子どもの村学園 〒911-0003 福井県勝山市北谷町河合5-3 |
たった3センチで
「えーい、けったくそ悪い。いっそ、全部やり直しだ。」
棟梁の堀等(ひとし)さんがカンカンになっている。校舎の完成検査で、玄関の幅を少し広げろといわれたのだ。大工さんたちは怒って大幅に広くしてしまった。学校建築の基準は厳しい。
- 廊下の幅
片方に部屋がある場合は173センチ、両側が部屋なら230センチ以上。これは鉄の掟である。 - 教室の出入口
教室には必ず2つ以上の出入口が必要だ。ドアはだめ。必ず引き戸。 - 天井の高さ
3メートル以上。小学校の時は、240センチでOKが出た。理由は不明。 - 消火設備
床面積が500?以上なら消火栓の設置が不可欠。それ以下なら消火器でよい。 - 天井裏
いくつかに仕切る。防火版を2枚重ねてはる。 - 窓の大きさ
床面積の5分の1以上。 - 教室の数と広さ
たとえ4学級でも6つ以上の普通教室と特別教室数室が必要。木造教室の広さの上限は50?。 - 建築確認
設計図を揃えて県の建築事務所に申請する。確認が出るまで3週間かかる。その前に着工してはいけない。 - 構造計算
木造でも床面積が500?以上だと資材と構造の計算を求められる。時間とお金がすごくかかる。これを避けて、当初のプランでは一体だった小学校と食堂を、二つに分け間に廊下を置いた(!?) - 壁とカーテン
壁紙とカーテンは不燃材に限られる。
検査当局同士が大げんか
小学校の寮を中学校の校舎に変えた時のことだ。校舎の階段の基準では、一段の高さが17センチ、奥行きが30センチだ。これより急ではいけない。寮には非常階段が付いていた。建築事務所の係官は、学校に非常階段は要らない。残すと違反になるから取りはずせという。そこで消防署の担当者が怒った。ほんの少しだ。ないよりあった方がよいという。建築事務所は「残すと違反だ。はずせ。」といい、消防署は「子どもの安全のために残せ。」といってゆずらない。さて、その結果は…?
ことほど左様に基準は微に入り細をうがっている。しかしすべてがバカバカしいわけでもない。子どもの安全という観点からは、やむを得ないものも少なくない。係官や建築基準を悪の権化のようにいうのはやめよう。
新しい酒は新しい革袋に
日本の伝統的な校舎では、長い廊下の片側に教室が連なっている。大きさも形も同じだ。その中で同一年齢の子どもが均等に分けられて、同じ授業が行われている。学級規模も教材も指導方法も固定されているのだ。
新しい理念でつくられる学校には、それにふさわしい建物が必要である。つまり子どもの年令、自発性と興味、能力に柔軟に対応できる学びの場でなくてはならない。つまり子どものグルーピング、学習形態、学習方法が大胆に変えられるとよい。子どもの移動が容易でないといけない。学習材は手近にあるべきだ。この目的に適うように発明されたのが、イギリスのオープンプラン・スクールである。
壁のない学校 多様な学習
オープンプラン方式の校舎には廊下がない。廊下がないので建築費が少なくてすむし、学習スペースを広くできる。大きさと使用目的の違う空間が上手に組み合わされている。教材や道具類が子どもの手の届くところに整理されている。子どもの個性と学習の性格に合わせて、一斉授業、小グループ学習、そして個別学習ができる。校舎内および外との行き来もスムーズにできる。
オープンプラン方式は、自由で体験中心の学校をつくりたくて、資金の乏しい私たちには格好の構造である。かくして小学校と体育館(現食堂)の建築費は、床面積が670?で6千万円弱であった。坪単価は27万円より安い。設計上のアイディアと堀棟梁のあつい心のおかげである。