「美味しく・楽しく・学べる」体験型観光でバナナ畑をご案内していて、お客さまが初めて見る・知る内容に「へぇ~ほぉ~」と驚き、感心・納得してくださることが多いお話をご紹介します。
サトウキビの生命の開始「発芽」にあたって、苗は上から3~5㎝程度の厚さの土を被せられた暗闇のなかで「どっちに向かえば太陽光を受けて光合成を始められるのか?」を間違えることのできない、命がけの選択を迫られます。
苗の植付けの際、苗を地表面に対して寝かせて置いても、立たせて置いても、同様に発芽するのですが、苗は「重力」を感じ取って、その反対方向、太陽に向かって、斜めにならないように姿勢を制御しながら芽を伸ばしていきます(負の重力屈性)。
根っこも同様に重力を感じ取っていて、こちらは重力と同じ方向、地中深くに向かって伸びていきます(正の重力屈性)。
植物には複数の重力感受機構がありますが、重力を感じ取る細胞内部の液胞中に漂うデンプン質が重力に引っ張られて、下側に沈降して溜まることで、自分がどっちを向いているか検知しています(デンプン平衡石説)。
無事に発芽したあとは、太陽光を探し当てる光センサーも同時に機能し始めます。先月号で紹介したフィトクロム(赤色光と赤外光を検知する能力)とは別種のフォトトロピンという光受容体が青色光を検知するのです。光に向かって茎の成長の方角を決定し(正の光屈性)、「節」の曲がり角を調整することによって、サトウキビは太陽に向かって、真っ直ぐに成長していきます。
植物の活動は原理・原則に従って無駄なくシンプルで本質的な活動です。ただ闇雲に、がむしゃらなわけではなく、たとえば光センサーの機能を目的に合わせて進化させていることは、すでにその一部を先月の連載で紹介しました。人間の五感(視・聴・嗅・味・触)に加えて、植物にはさらに15感が存在するという主張もあり(※)、環境に適応した進化を遂げている様子がわかります。
※参考文献「植物は<知性>をもっている 20の感覚で思考する生命システム」(ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ヴィオラ・著、 久保耕司・訳/NHK出版)