植物分類では「バナナは草」というお話には、過去にも少し触れました。
(1)蜂の巣のように「隔壁」を作って葉面の強さを保ち、(2)葉っぱが放射線状に重なり合って3次元の強さを高め、(3)隔壁で作る小部屋に水を蓄えて、まるで『重量構造物』のようにどっしりと構えています。だから、繊維を撚り上げた葉っぱの重なりが、5メートル以上の高さにも成長できます。
今月は実芭蕉(バナナの別称)と同じバショウ科に属する植物で、食べられる実のつかない【糸芭蕉】についてお話しします。外側のしっかりとした繊維からは布(芭蕉布)が、内側の柔らかい繊維からは紙(芭蕉紙)を作ることができます。
芭蕉布の着物は、輸入品の木綿や絹が手に入る以前、1200年代の古代沖縄ですでに使われていました。位階によって布の色が使い分けられていたようですが、庶民から貴族・士族まで広く普及していたようです。(1)糸芭蕉の幹を切り倒し、(2)葉鞘(葉っぱの根元の鞘状になった部分)の外側から繊維を大まかに切り裂いて取り出し、(3)叩いたり煮出したりして繊維を柔らかくしてから、(4)乾燥させ、さらに繊維を切り裂いて糸を取り出し、(5)これを紡いでようやく糸ができあがります。
そこから(6)糸の染めや布の織り、裁断・縫製を始めて、着物が仕上がります。すべて手作業で仕上げられていたことを考えると、1枚の着物を仕上げるのにも、大変な時間と労力がかかっていたことが想像できます。
一方、紙漉きの技術が琉球に導入されたのはかなり遅く、1694年に楮を原料とした紙漉きの製造技術が薩摩から伝えられました。芭蕉紙は1717年に開発された琉球固有の紙です。こちらも紙一枚を仕上げるのに相当な手間がかかったといわれています。だからこそ筆を取るときには、現代とは桁違いの緊張度合いがあったと想像することができます。