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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

【Vol.61】恐怖や不安からの解放

投稿日:

私たちには恐怖という感情が備わっています。心配や不安、怒りも似た感情です。3・11大震災から数ヶ月間は、誰もがそのような感情に支配されていた時期でしたから、その状況に対して「パソコンやテレビを見過ぎないようにしてください」「体を動かしてください」「できるだけ大きな声を出してください」とお客様に繰り返しお伝えしたことがありました。核の恐怖に苛まれているときに、いったい何を呑気なことをいっているんだと思われた方も多かったかもしれません。あの世間が恐怖や不安につつまれている時期に、その感情について具体的に論じても、それで問題が解決されるわけではありませんでしたので、当時はすぐできる簡単な方法だけをお伝えしました。今回は、もう少し具体的に考えてみましょう。

学び、そして手放す
恐怖などの感情は、私たちが身の安全を確保するために必要な本能です。と同時に、私たちの心の奥深くに存在する、過去の経験から作り上げられている反射的な感情でもあります。どちらにしても、共通しているのは「わからない」という気持ちです。私はもともと対人恐怖症で、誰と話してもすごく緊張し、赤面をはじめ、あらゆる緊張反応が出ました。飛行機恐怖症でもあり、飛行機に乗るのがとても怖くていつも手に汗を握っていましたが、それにもまして海外に行くのは大好きでした。そこで、なぜ自分はこれらのことについて恐怖を感じるのかということを調べてみることにしました。対人恐怖症とは、目の前の相手が私についてどう思っているかという心配から引き起こされているということがわかりました。もちろん、過去に何らかの出来事があって心配を感じるようになるということも知りましたが、過去のことは自分に責任はなく、どうしようもないと割り切りました。飛行機については、航空機はなぜ飛ぶのかという構造について理解し、どのようなセーフティーネットが用意され、事故の確率についても学びました。どんな機体やパイロット、天候に遭遇するかは、そのときの運次第で、こちらも私にはどうしようもないと覚悟しました。このように恐怖や不安についていろいろ学ぶうちに、結局のところ「自分のコントロールのしようがないことに不安を抱いているに過ぎないし、主体的に何ともできないことを心配しても意味がない」ということに気がついたのです。特定の感情がなぜ生まれるのかということを知らずに、ただ起きるがままに任せてしまうよりも、そこにはそれなりの原因があることを知り、感情が起きたときにはそれを思い出すこと、最後には割り切ってしまう癖がついたことで、必要以上の恐怖を感じる機会は激減することになったのです。さらに、恐怖や不安そのものから逃れずに、人に会うことも飛行機に乗ることもやめなかったことが、いいトレーニングになっていたということが今ではわかるのです。知らないことを知ろうとし、知ったうえでどうしようもないことには、どうしようもないときっぱりと割り切ること、これが一つのコツのようです。努力したあとは、ぱっと手を開いて離すということなのでしょう。

体と感情の関係
 経営者になってから、またさまざまな悩みに向かい合うことが多くなり、改めて感情やコミュニケーションについて学ぶ機会に恵まれることになりました。縁があったのは、NLP(神経言語プログラミング)という、一種の実践心理学です。学問的な評価は決して高くないようですが、実生活では確実に役立つものであることは間違いありません。NLPは具体的なテクニックの集まりとなっていますが、そのなかに「感情と体(の状態や使い方)のあいだには重要な関係がある」という重要なポイントが含まれています。震災直後、多くの人はほとんどどこにも出かけることなく、テレビやネットで、起きている出来事がどれだけ恐ろしいかを繰り返し聞かされていました。ほんとうに怖いのは、とくにパソコンの画面に向かっているあいだに知らないうちに起きていたことです。パソコンに向かうときにいろいろな姿勢を取る人はほぼ皆無で、一様に画面を覗き込んでいます。同じ体のポジションのときに、同種の情報を何度も何度もすり込まれると、そこに相関関係が生まれ、姿勢(や体の状態)と特定の感情の関係が固定されていきます。書いてあることが恐怖や不安を催すものであると、体は前屈みになり、呼吸は浅くなり、どこかが固まっていきます。体と感情の関係を知っていると、同じ人が、同じような性質の発言をネット上で続ける理由もわかるのですが、その状態に固定されていると知らない本人は、それは自分の思慮した結果だからと信じるに至ります。もし、パソコンに向かうとネガティブな気持ちが沸いてくるという自覚があれば、以前から恐怖や不安の状態に固定されている可能性がありますので、パソコンに向かう前に深呼吸してリラックスするなり、思いっきり胸を張って姿勢を正すなり、深く呼吸をするなどの意識的にいつもと違う状態を作り出してください。それだけで思考も状態も大きく変わってくるでしょう。不安感に対応するアロマやフラワーエッセンスなども試してみる価値は大きいです。

このように考えてきますと、恐怖や不安から逃げ出すことよりも、しっかりとそれに向かいあい、究極的にあきらめるほかないことには、あきらめることも必要だとわかってきます。ここで触れたことはわずかなことにしか過ぎませんが、いくらでも感情と向かい合うコツやノウハウは世の中にあふれています。対象をよく知り、コツを知ることで感情に振り回されないことがわかっていると、次に同様のことが起きたときに冷静に対応できますし、周囲を感情の渦に巻き込むこともなくなります。恐怖や不安はいらないと思っていながらも、実は手放せないでいることがよくあります。ぐっと握りしめず、手を大きく開いて捨ててしまいましょう。

- 中川信男の多事争論 - 2012年10月発刊 Vol.61

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