傷つくことを恐れない
オリンピック、パラリンピックをはじめ、今年もスポーツやイベントの際に耳にしたのが「切磋琢磨」という言葉。ライバル同士がしのぎを削りお互いを成長させていく姿のことですね。
禅の言葉で「切磋琢磨」とは、「どんな宝石も、それを磨いていかなければ光り輝くことはない」ということを意味します。磨くということは、最初は傷をつけることから始まります。
傷つくこと、傷つけることを恐れていては、何も始まることはないということになります。
そのためには、最初が肝心。まずは自分を認め、相手を認め、お互いその存在を認め合うところから始まります。
あなたという存在がそこにいてくれることを私は知っているよというメッセージを発すること。存在を無視したままでは、傷つけることもなければ磨き合うこともありません。これを「存在承認」といいます。
親から子どもに対する愛情も、この「存在」そのものを認めることが大切です。子どもは親に育てられますが、親もまた子どものおかげで親として成長していくのです。「生まれてきてくれてありがとう」という愛情なくして、健全な親子関係を育んでいくことはできません。
この「存在承認」に相対する言葉が「行動承認」。行動や発言などの行為を認めて評価することです。昨今の褒めて育てるということも、この行動を褒めることが主体となります。この方法は、あくまでも短期的に人間関係を築くときには有効ですが、子育てのような関わりにおいては、必ずしも良いことばかりとは言えません。子どもの側からすると、やがては「これをすることで褒めてもらえる」と、親から「認めてもらうこと」が行動の動機となり、自分では善悪の判断ができずに、依存関係に陥りやすいと言われています。
「躾(しつけ)」とは、し続けることで、「身」から出る「美」しさのこと。人として当たり前のことを当たり前にできるあり方を長い目で伝えていくことが躾・教育の基本であるべきでしょう。
日々の治療では、小児患者さんのなかにはジッとしていられなかったり、挨拶ができなかったりと病気治し以前の問題ではというお子さんも見受けられます。こうした患児の親御さんは「そんなことしていたら先生に叱られるよ」と、こちらの顔色を行動の判断基準にしてしまうこともあり、子どもの自立を促しているようには見受けられにくいものです。
親として、子どもから嫌われることを避け、やがては子どもを親に依存させてしまい自立を阻害してしまう。親子であっても、傷つけあうことを恐れないでいてほしいものです。
間違いか、違いか
人は自分の過ちを認める勇気を持てず、他人を批判しがちですが、他人を「間違っている」と判断すると、自身のその先が閉ざされてしまいます。「間違い」ではなく、あるのは「違い」だけかも知れません。自分が正しいと思うことをする人とだけつながろうとする心理は、自己承認ができていないことにあります。自分を認められない、傷つくことが怖い。だから表面的に合いそうな人とだけつき合う。それでは、人生の幅は狭まることはあっても拡がることはないでしょう。
また、違いといっても白か黒かというはっきりとしたものではなく、灰色のゾーンがお互いにあり、その間を変化していくもの。人とは常に矛盾を抱えているものではないでしょうか。そこをぶつけ合いながら、ときには傷つけあいながらも、磨き合っていくことができたら、関わり、寄り添い合うことのできる人との関係を育んでいけるはずです。
「21世紀は対話の時代」とは、ダライラマ14世の言葉。自分の考えをきちんと伝え、相手の考えもまずは受け止めてみる。違いを認め合いながら話し合っていくことが、これからの時代に求められる生き方なのかも知れません。
人は一人では生きられません。切磋琢磨しながら心を成長させていける人間関係を築いていきたいものです。
圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー
西下 圭一(にしした けいいち)
新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。
年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。
自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。
兵庫県明石市大久保町福田2-1-18サングリーン大久保1F
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