「自分の頭で考えて、納得できるまでやる」。昨年、免疫治療薬を開発した功績でノーベル医学生理学賞を受賞した京大特別教授の本庶佑さんの言葉です。常識を疑ってみること、好奇心を持ち続けることの大切さを説いておられました。また、「いま一番やりたいことは?」と問われた際には「エイジシュートです」と即答。そのために、「筋トレと、家でのパターの練習を欠かさない」と運動習慣があるところにも心が動かされました。
〝エイジシュート〟とは、ゴルフで自分の年齢以下のスコアを出すこと。受賞当時76歳の本庶さんのベストスコアは78とのことで、翌年も同じスコアで回ることができれば達成ということになります。エイジシュートは、現実的に60代後半以降でないとあり得ません。年齢を重ねることで達成しやすくなるので、体力の維持・向上とのせめぎ合いが楽しさになります。
幸せに年齢を重ねる
近年、「サクセスフルエイジング」といって、その年齢だからこそできることを評価し、幸せに年齢を重ねていくという考え方が広まりつつあります。老化を止めることはできない。しかし、老化を衰えや喪失と捉えるのではなく、それまでの経験を活かし、社会貢献などにつなげることで加齢を幸せなことと考えるのです。老化のスピードを抑えようとする「アンチエイジング」とは対極にあるといえるでしょう。アンチエイジングは抗加齢ともいわれますが、抗うことはプラスの発想に結びつきにくいものです。先ほどのエイジシュートも、年齢を重ねることが楽しみにつながるという意味ではサクセスフルエイジングの一つといえますね。
エイジシュートをもじった遊びとして、「エイジラン」を友人や周囲に呼びかけたことがあります。10キロメートルを走って、自分の年齢の時間(分)よりも速くゴールしようというものです。1万メートル走の日本記録が27分29秒ですから、一般人では30代後半くらいからでないと達成は難しい。誕生日を迎えるごとに目標タイムが緩くなるので、年齢を重ねることを本人が一番喜んでいる姿が楽しく、40代でちょっと頑張れば狙えるかなということで、盛り上がった思い出があります。
また、以前研修生から「自分がこの道を20年続けても、先生と同じような治療ができるだろうか」と言われたことがありました。私からすれば、そのころには彼女はもっとレベルの高い技術を身につけていると思いますし、そうでないと困るのですが……。若い世代から羨ましがられる年齢・経験の積み重ね方という点では、これもサクセスフルエイジングといえるでしょう。
寿命の中身
仏教の世界では「定命(じょうみょう)」といって、人にはそれぞれに定められた命があると考えられています。ここで説かれていることは、〝命の価値〟と 〝時間の長さ〟がイコールではないということ。与えられた命をいかに使うかが大切なのです。人間の寿命は運命で定められているのか、自分の努力で延ばすことはできないのか、本当のところはわかりません。ただ、寿命を延ばすことはできないとしても、その中身を変えることはできるはずです。
自分がやりたいと思ったことを、その瞬間から一生懸命にやる。そうやって取り組んだ一日と、ただ時間を過ごしただけの空っぽな一日とでは自身の気持ちが違います。大きなことをやる必要はなく、散歩の時間を延ばしてみるとか、近所でも行ったことのないところに行ってみることで、新たな発見から楽しさが見つかるかもしれません。
一日一日を大事に生きることで、その先にある、重ねた時間の意味が変わります。それを見ている子どもたちが、大人になるっていいなと憧れるような年齢の重ね方をしたいものです。さぁ、今日はどんな一日にしましょうか。