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鍼療室からの伝言

鍼灸師の西下先生による陰陽や自然食。二十四節気など古来の智恵のお話

圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー

西下 圭一 (にしした けいいち)

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。

自分を見つめ直すチャンス

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昨年に続いて、今春も緊急事態宣言が発令されました。子どもたちの学校生活や部活動にも影響が出て、納得のいかない結果を受け入れざるをえない子もいたことでしょう。

一方で、この状況に救われた子がいるのも事実です。春先にケガをしてしまい、当初のドクターの診断では「来月の試合に出るのは無理だろう」と言われた学生は、私の治療を週に2回受けながらリハビリを続け、翌月には動けるところまで回復、緊急事態宣言によって延期された試合に出場を果たしました。あきらめずに努力し続けたからこそ、運が味方してくれたのかもしれません。

試合の延期が決まってから動き始めていては、間に合わなかったでしょう。ドクターの診断も周囲からのアドバイスも、参考にすべき意見のひとつであって、どう治療に励むか決めるのは、あくまで自分自身であるべきなのです。

周囲の不確実な声

この連載が読まれるころには、オリンピックの開催は決まっているでしょうか。オリンピックとなると日本代表選手は数百人、その候補選手となれば数千人はいるでしょう。そこを目指してきたアスリートたちと指導者、関係者の総数にすれば、数十万人にものぼります。この1年間の新型コロナウイルス感染者数と変わらないくらいの人数です。軽々しく「中止すべき」と言えることではないような気がします。

「危険だからやめるべき」という姿勢は、東京オリンピック・パラリンピックと新型コロナウイルス感染に始まった話ではありません。十数年も前から議論されてきた、運動会での組体操にも似たものを感じます。「ケガをするからやめるべき」。しかし年間で何人のケガが報告されているか。割合としては数百人に1人いるかくらいなのに、すべてをやめてしまう。この年代で経験できることを経験しないまま、成長していくことがどうかという議論はなされません。リスクとベネフィットの両面を見るべきではないでしょうか。

いま反対の人たちは、いざ開催されたらどのような態度をとるのでしょう。きっとテレビ中継を観るでしょう。日本人選手が映れば応援するでしょう。「反対してきたから」と頑なな姿勢を貫く人は稀でしょう。反対の声というのは、その程度のことに過ぎません。

昨年の今頃を思い出してみます。休校続きの学校教育を心配して「新学期を9月始まりにすべき」との議論がなされていました。いまはもう誰もそんなことは言っていませんね。所詮、その程度のことなのです。

不確実な声に振り回されないようにしたいものです。

孤独でいい?

東京オリンピック・パラリンピックについては、リモートでの開催を望む声もあるようです。陸上や水泳のような記録を競う競技、体操のような技の難易度を競う競技であれば可能かもしれませんが、それでも場所や時間など環境面での不公平感がありそうです。ましてや球技や対戦型の競技であれば、リモートで競うことは不可能です。一部の競技・種目のみの開催となれば不公平感はさらに大きくなります。

突き詰めれば突き詰めるほど、公正・平等というのは、実は難しいことかもしれません。さらには運も左右します。

「人間は孤独でいる限り、かれ自身であり得るのだ。だから孤独を愛さない人間は、自由を愛さない人間にほかならぬ。けだし孤独であるときのみ人間は自由なのだから」。ドイツの哲学者、アルトゥル・ショーペンハウアーの言葉です。

こんな時代だからこそ、周囲に合わそうとせず、少しは自分勝手なくらいでもいいのかもしれません。ときには一人になって、自由に自分を見つめ直してみるのによいタイミングと考えてもいいですね。

- 鍼療室からの伝言 - 2021年6月発刊 vol.165

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