一年の計は元旦にあり。と、なにか始めようとしても、なぜか動けない。ということ、ありますよね。どうやら「手放す」ことと関係しているようです。「手放す」という言葉を広めるきっかけとなった『人生を変える一番シンプルな方法 ~セドナメソッド』の監修者、安藤理さんに「手放すこと」の魅力、よくある誤解について伺いました。
「行動」「思考」よりも「感情」のほうが深いところから自分を動かしている
―セドナメソッドが伝える「手放す」という方法は、どんな方にとって役に立つものなのでしょうか?
安藤理さん(以下安藤)
・何かがひっかかる
・やりたい気持ちはあるのにできない
・片づけられない
・がんばっているのに報われない
・好ましくない行動や選択をしてしまう
こんなふうに動けなくなってしまうこと、ありませんか? そういう方がセドナメソッドを使って、感情を手放すと、気分が軽くなる、気持ちが前向きになる、落ち着くといった状態になれるのです。
セドナメソッドを続けていくと、
・問題を冷静に見られるようになる
・楽観的に考えられるようになってくる
・行動や態度が変わってくる
といった変化が見られ、自分の可能性が広がります。人間って「行動」や「思考」レベルでコントロールしようとしてもなかなか変われませんよね。「感情」のほうが深いところから自分を動かしますので、「感情」に注目したほうが扱いやすいし変化も出やすいのです。
―確かにネガティブな思考を止めることって難しいです
安藤
考えないようにすることは不可能ですよね。ネガティブな考えに囚われているのに気がついたら、それに伴っている感情、不快感を手放す。これなら練習すれば自分ひとりでもできます。表層に浮かびあがってきた感情を一度味わってから手放していくと、結果、考えが変わってくる。さほど無理な努力をしなくても、より自然に「思考」が変わっていくことが期待できるのです。
「制限的な思考活動」という言い方を、この本でも表現していますが、なにかを制限しようとすると、むしろ、そこと格闘してしまいますし、問題のあるところばかりに気持ちがいってしまう。そこから離れてみる、ということです。
感情を解放していくと、制限的、否定的な考えが浮かんできても、それに乗っ取られることは無くなっていくので、思考に振り回されなくなっていきます。
―思考のループから抜け出すための作業なのですね?
安藤
はい、囚われた状態から抜け出すということです。否定的な不快な気持ちに囚われたままだと、動けなくなったり、ついつい、好ましくない選択や行動を取ってしまう。手放していくと、そこから抜け出している時間が長くなります。感情を手放すことは「手段」に過ぎず、「目的」ではありません。自分が望む人生や生活を生きる手段として、セドナメソッドを使っている……ということです。
『新版 人生を変える一番シンプルな方法―セドナメソッド』
ヘイル・ドゥオスキン(著),安藤 理 (監修), 乾 真由美 (翻訳)主婦の友社
遊び心と好奇心を持って自分にやさしく「手放す」習慣を
―心の整理方法? 思考の整理方法?
安藤
心ですね。感情と思考は入り交じっていますよね。心が整理され、すっきりクリアになっていきます。軽さや明るさを感じます。まさに「らくでナチュラルな」感覚になれると思います(笑)。「遊び心と好奇心を持って、自分にやさしく接しながら続けていきましょう」ということ。それがコツです。
―セドナメソッドを日本で広めたいと思ったきっかけはなんですか?
安藤
最初に本格的に学んだことはTM瞑想で87年ごろです。当時はコンピューターの会社に勤めていました。業界が伸び盛りの時期で、会社は非常に面白かったのですが、仕事のストレスをなんとかしようと(笑)。会社に行くのが大変な時期があり、立て直すために自律訓練法などリラックスできる方法を学び始めたのがきっかけでした。
他の方法にも興味が広がってきて、なかでも瞑想が面白いと感じ、いろいろ学び始めたんですね。ちょうどPHP研究所やダイヤモンド社のビジネス書で瞑想が紹介され、ビジネスマンの間に少しずつ浸透し始めていました。そこから、コンピューターの仕事よりも、こういう分野のほうが、自分が本当にやりたことだと気づき、仕事を変えながら独立。数年かけて教える側に移行していきました。別の瞑想や心身に働きかける手法も学び、それらの指導経験を積みました。
―セドナメソッドに出会った当時のメインのお仕事は?
安藤
03年のことですが、「ソース」という「自分が何が興味があるか」「どうことを大事だと思うか」を明確にするワークショップのトレーナーや、トレーナー養成講座講師をしていました。株式会社ヴォイスが書籍『ソース』を発行していて、そのヴォイスの翻訳書の中に、ジョー・ヴィターレさんの本があり、それを読んだのです。セドナメソッドの著者ヘイル・ドゥオスキンさんは『ザ・シークレット』という引き寄せの法則の本に登場するのですが、そこにジョー・ヴィターレさんも登場されていたんですね。そのジョー・ヴィターレが書いた本『スピリチュアル・マーケ ティング』にセドナメソッドのことが紹介されていて、数行の文章でしたが、なんとなく気になり興味を持ちました。
当時は英語のWebサイトしかなかったのですが、サンプルのカセットテープを取り寄せて聞いてみたんですね。この本に書かれた基本の手順が録音されていたので試してみたところ、いろいろな手法、瞑想の感情を扱い経験してきたなかで、そのエッセンスが、すごくシンプルに短時間でできると感じたのです。短時間なので、かすかな違いですが、確かな手応えを感じ、教材を取り寄せてやってみることに。何ヶ月か聞きながら体験してみると、より自分の状態が良くなってくるのが感じられ、内面が変わっていくプロセスで、だんだん状況も変わってきたのです。この分野の仕事を八ヶ岳に移住してから始めたこともあり、軌道に乗って安定するまで、手探り状態でしたが、その時期をうまく乗り越え、軌道に乗せるのに役立ったのです。何か大きな問題や悩みを抱えていたわけではなく、移住前後の一番大変な時期を乗り越えた後だったのですが、さらに次のステージに入ったように思います。
制限された自己イメージがあり、次へ行けなかったときに、セドナメソッドで解放していくと、うまく流れに乗れたんですね。キーになる方に知り合うなど、より広く僕の活動を知っていただけるようになり、翌年から、セドナメソッドのセッションをすることになりました。いろいろな出会いや流れを積み重ねてきて、「次はこれをやりなさい」ということなんだなと、自分の役割を与えられたような感覚があり、できるところからお伝えしていくことになったのです。
あることが気になっているときは、問題や今の人生に足りないことにばかりフォーカスしているんですが、感情解放が起こると、問題や課題があったとしても、自分ができていることや上手くいっていることも認識して、そこを楽しんだり広げていったりできる。
ソースのプログラムの場合、どんなことにポジティブを感じるかにフォーカスして、自分がやりたいことを見つけます。本当はたくさんあるはずなのですが、人間ってすぐにネガティブなほうに引っ張られてしまいますよね。そうなったとき、セドナメソッドで手放せば、ポジティブへのフォーカスに戻しやすいのです。セドナメソッドとソース、両方身につけておくと人生が好転しやすいと思います。
「感情」は「嫌なもの」ではない やさしくあたたかく扱ってあげてほしい
感情にはそれぞれ「役割」がある
―やりたいことが多すぎるのか、私も迷いやすく先に進めません
安藤
「迷い」を感じているということに気づき、それを解放していくといいかもしれません。一足飛びにはいきませんが、着々と徐々に進んでいる手応えがあれば、現状に対する見方も違ってきます。ゴールに至らなくても、プロセスを楽しむ余裕が戻ってくるかもしれません。
絡まっていてごちゃごちゃしていると、丸ごと全部捨てちゃいたくなりますが、ほぐれてくると「あぁ、まずここを解けばいいんだ」ということが見えやすくなってきて、なんとか「扱えるもの」「取り組めるもの」になっていくんですね。
―例えば新しい場所に行こうとするとき「目的地にたどり着ける」と心のどこかでわかりつつ「不安」という感情を抱えたまま間違えそうになる。でも「恐れ」や「不安」は防衛本能ですよね?
安藤
それぞれの感情には特有の役割があるので、解放していくと、それを役立つ方向に使っていけるのです。不安が出てきても解放したうえで、その状況を見ていくと、調べてから行こう、時間を余裕を持って行こうなど、安心を得るために必要なことに注意が向きますよね。不安は、あってはいけないものではなくて、無謀なことをしないで済むとか、身を守るために必要な感情なんです。
―つまり「感情」は信号みたいなものなんでしょうか?
安藤
そうです。信号に気づいたら、注意して走行すればいいだけです。適切にハンドル操作ができていれば、ビクビクする必要はありません。
―もしかして、荷物をあまり持たなくて平気な人は「解放」が得意なのでは? 切り替えや手放しが早い人がいます
安藤
それはありますね。ヘイルさんの動画にも、荷物をたくさん背負う人が登場し「手放せていない人」を表しています。部屋の片づけと心の整理に共通点があることは知られてきていますが、実際、セドナメソッドをしていくと片づけられるようになる人はたくさんいます。
いわゆる「切り替え」が得意な人は、自然に感情を手放せている場合もあるでしょう。ただ「手放す」というのは自分や人の感情を切り捨てるように扱うことではありません。それでは受容や共感といった大切な感情まで失いかねません。自分の感情を認めて手放す習慣は、他者の感情を抱えこんだり拒絶したりすることなく関わることも容易にするのです。
―実は、体験を人に伝えたり次に活かすためにも「怒り」「悲しみ」を持ち続けていないとダメだと思っていました
安藤
怒りの感情を持ち続けることは、「戦う人のアイデンティティ」を抱えることになってしまいます。感情を解放しても、その経験で得た智恵や、成長をなくすわけではありません。むしろ使えるようになる。忘れるわけではない。感情を持ち続けるために使っていたエネルギーを、変換して使えるのです。
感情を持ち続けていることは、煙がいっぱい出るような質の悪いガソリンで動いているようなもの。感情を解放すると燃費のいい排気ガスの出ないガソリンになる。感情を抱え込んで固まっていると重たいけれど、解放すると広がる、流れが生まれる……というイメージです。
「解放する」という意図を持ち まずは「感情」を認める
―「手放す」というと、一回で終わらせなきゃいけないイメージがありましたが、「今ここ」を意識して雑念を取り払う座禅とも似ている気がします。日頃の掃除のように、散らかってきたら、また片づければいいのですよね?
安藤
まさにそうです。生活すれば何か必ず出てくるわけですから。毎日掃除をするように、習慣として身につけてしまえばいいのです。手放すという言葉一つとると、そこから連想されることは、人それぞれ違ったりするものですよね。ここでいう感情解放は、禅と同じで、目の前に出てきた感情を、ただまず認める。言い換えると「許す」という意味。英語では「Welcome」という言葉が使われ、迎え入れるという意味なんですよね。人間って、否定的な感情を受け入れることが難しいですよね。快いものだけ歓迎したい、そうでないものは排除したいというものですが、結果的に押さえ込んで、抑圧になってしまうんです。
―ネガティブな感情は、感じてしまうと先に進めなくなりそうな気もします
安藤
この手法の場合は「解放する」という意図を持って、まずは第一歩として、どんな感情であってもそのまま認めてみる……自分のなかに、その感情が存在していたり、浮かびあがってきたりするのを、そのまま味わって体験してみます。いきなりネガティブなものを追い出すのではなく、どんなものであっても一度味わう。ずっと抱えている必要はないので、その後、解き放つと広がっていきます。
―なんだか「動き」を感じますね
安藤
この本のなかに、動作での例えが出てきます。最初は「握っているボールペンを離す」という動作。もう一つは両手を広げるような動作ですよね。内側の感情に対して自分を開く。オープンインサイドっていう表現を使いますが、大抵、閉じたり抑えたりしている。そうすると、余計にその感情の影響を強く受けてしまう。一旦、浮かび上がらせると、最初は心地悪い感覚が通過するんですが、そのまま浮かぶままにしてあげる。そうして、自分を開いていくとだんだん拡散していくようになってきて、軽くなってきて、流れが戻ってくるんですね。その後半のプロセスを「手放す」というのです。「認める」と「手放す」はセットです。
―一度、受け止めて納得してから出て行ってもらうということですよね?
安藤
そうです。出てくる「感情」を良い悪いとジャッジしません。「嫌なもの」として捉えるのではなく、やさしくあたたかく扱ってあげてほしいんです。「出てきちゃダメ」と抑えたり、なんとかしようとしたりというのは、格闘していること。「あ、また出てきたね」とあたたかく迎えてあげてほしいんですね。
―気づかなかったことにしようとしても、消えるわけじゃないんでしょうね
安藤
そうですね。セドナメソッドでは、「消す」「取り除く」といった表現が使われることはほとんどありません。最終的にどんな選択をしようと、第一歩は、そのことについて表層に浮かび上がっている「今の気持ち」を認めて手放すということです。トラウマなど、大きな何かを手放すということではありません。
(次号に続きます)
安藤 理(あんどう おさむ)
兵庫県神戸市出身。8年間の東京暮らしを経て98年に山梨県小淵沢町に移住。99年に「ソース」を活かし始めてから八ケ岳南麓での生活が活性化。00年5月からソーストレーナーとして数多くのワークショップを実施。01~14年株式会社ヴォイス主催のソーストレーナー養成講座講師担当。
ソース公認トレーナー。米国STA認定セドナメソッド・コーチ。書籍「人生を変える一番シンプルな方法~セドナメソッド」監修者。八ヶ岳南麓の自宅でセドナメソッドの電話セッションやソース・ワークショップ、東京と神戸でセドナメソッドのグループセッションを実施している。
http://andoo.info/
取材を終えて
「セドナメソッド」を知ったのは、恐らく8年前、出版されてすぐのことだったと思う。セラピー、催眠療法、ホリスティック療法などの体験取材をしていたので、その雑誌の関係で知ることができた。しかし、私は途中までしか読み進めることができなかった。当時、借金・DVなど問題児の前夫と離婚し、コントロールしたがる母親との確執に苦悩していた時期。「人生の機微を知っている自分」を、誇りでもあると感じていた。自分のなかにある、さまざまな感情を知り、それを、同じように苦しむ人の手助けに役立てたいと思っていたために、「手放す」という文字に抵抗を感じたのだ。今思うとそれこそ「執着」だった。今回、安藤さんご本人にお会いできることになり、「感情を手放しても、経験から得た智恵は消えません」と伺ってホッとした。
安藤さんは認定講師だからこそ、具体的な手法を紙面で伝えることはできない。興味のある人はぜひ、本を手にとってもらいたい。この手法がいかにシンプルで、いかに続けやすいか。驚かれることと思う。
編集室Roots 代表
藤嶋ひじり(ふじしま ひじり)
『らくなちゅらる通信』編集担当。編集者ときどき保育士。たまにカウンセラー。日経BP社、小学館、学研、NHK出版などの取材・執筆。インタビューは1,500人以上。元シングルマザーで三姉妹の母。歌と踊りが好き。合氣道初段。