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特集

インタビュー取材しました。

【Vol.69】現状を知り、意識的に生きる力を

投稿日:

福島第一原発事故後すぐに福島に入り、CRMS市民放射能測定所を立ち上げた岩田渉さん。
プレマ基金でも、放射能測定器の提供など、そのお手伝いをさせていただきました。
岩田さん、CRMSの取り組みと、福島の現状についておうかがいしました。

お話

岩田渉(いわたわたる)氏
2011年3月11日をきっかけに福島に拠点を移し、CRMS市民放射能測定所を立ち上げ、市民の放射線防護のために尽力する。

市民による市民のための測定所
2011年3月11日の事故直後、私は放射能による汚染状況について充分な情報が公開されていないことに危機感を覚え、友人たちと「測定器47台プロジェクト」(*1)を立ち上げ、4月に福島に入り、放射能の空間線量を測りはじめました。
当初、日常生活レベルでの適切な情報がなく、市民は放射能について自ら調べ、身を守らなければならない状況でした。子どもたちの給食、また県内のスーパーマーケットの食品なども、福島県や近県のものしかない状態。食品に含まれる放射能についても測定を急ぐ必要があり、フランスのNGO団体「CRIIRAD」の協力も得て、6月から食品測定をはじめ、7月に、正式にCRMS市民放射能測定所(以下CRMS)としての活動をはじめました。
主婦や有機農業者、障がい者就業施設の方など、多くの人々の協力で、2011年末までに福島県内に9カ所、東京都内に1カ所、市民放射能測定所(以下CRMS)を設立しました。放射能の測定は、素人でも知識を身につければできるものです。CRMSの
10カ所の測定所では密にコミュニケーションを取り合い、測定精度を高める努力もしています。

ホットスポットは再形成される
福島第一原発は現在でも1時間に最大1000万ベクレルの放射能を放出し続けています。(2013年3月16日時点)現在、年間1ミリシーベルトを超える地域は、国の特措法によって除染の重点区域になっています。しかし除染したとしてもホットスポットは再形成されます。そうした場所では、非常に高濃度の汚染が確認されるということが、数年から数十年と続きます。
今後も大きな地震や津波が起きる可能性もあり、原発の電源がいつ失われるかもわからない状況(原発の配電盤にねずみが入り込んでショートし停電するなどの問題が起きている)が続きますが、政府はきちんとした防災計画を立てていません。これは非常に大きな問題です。
このような現状の中、多くの人々が汚染地域に住み続けています。強制避難地域に指定されたごく限られた地域以外では、自主避難という形をとらざるをえません。小さなお子さんがいる家庭、年配の方々、それぞれ、さまざまな事情を抱えています。
福島に留まり、農業を続けられるのかどうか、模索している方もいらっしゃいます。農家の努力もあり、最近では農産物への放射能の移行は、国の新基準値100ベクレル/㎏以下に抑えられ、実際はより低い値となっています。しかし農作業自体が被爆労働になってしまっているので、農家の方の健康に対する配慮が必要です。

農業者と消費者の信頼回復のために
CRMSは、ふくしま有機農業ネットワークとも協力して参りました。2年前、放射能汚染の現状を把握しようと、測定所に相談にいらっしゃったのがきっかけです。
今年の3月にふくしま有機農業ネットワークが運営する、東京・下北沢の「ふくしまオルガン堂」(9ページ参照)がオープンしましたが、そこで取り扱っている福島産の野菜は、測定値を表示して販売しています。これはとても画期的で、勇気のある取り組みだと思います。
事故後、「風評被害」という言葉が多く使われ、生産者と消費者の間に深い溝ができてしまいました。当初政府は食品の基準値を500ベクレル/㎏とし、政府が安全と言っているものを買わない消費者がいるから、農家の売り上げが落ちてしまうんだという意味で「風評被害」という言葉を使い始めました。生産者の方たちが、被害者であることは言うまでもありません。消費者も情報に翻弄された被害者です。そして、作物が売れない理由は「風評被害」ではなく、政府と東京電力による「放射能汚染」以外の何ものでもありません。つまり「風評被害」は、責任を負うべき当事者である政府や東京電力から、消費者への責任転嫁の言葉でもあったのです。同様の意味で、私たち自身が被害者であると同時に、加害者であることも明らかです。
ふくしまオルガン堂のように農産物の放射能測定値を開示した上で、消費者が食べるかどうかを選択できるシステムは、失われてしまった農業者と消費者の信頼関係を取り戻す取り組みのひとつであり、応援していきたいと思います。

想像力と意思の力を取り戻そう
私はもともと作曲家ですが、原発事故が起こる前から、現代社会では、人間が本来持っているはずの自ら思考する力・イメージする力が衰えている、と感じていました。そうした問題意識が、放射能測定所の仕事と、繋がっていると感じます。
放射能という目に見えない、臭いもないものに対してのリスクは、想像力を働かせながら、感じ取っていく必要があります。また「閾値のないリスク(*2)」というのは日常的な感覚として持ち合わせていません。今、想像力を持ち、より意識的に現実と向き合う力が必要だと、改めて感じています。
ある方が「希望とは、私たち大人が子どもに与えることのできるものではない」と言っていましたが、子どもに希望を与えようなんて思うこと自体、とても傲慢な考え方なのかもしれません。子どもは自ら、希望を生み出せるものなのだと思います。
人間は、環境とともに生きています。芝生に寝転がり、花を摘み、外で自由に遊ぶのが、子どもたちの本来の姿です。子どもたちが持っている「希望を見出していく力」を充分に発揮できるよう、安心して遊べる環境を整えることが、大人である私たちがすべき仕事なのだと思っています。


放射能測定の内容は、空間線量、食品サンプルの測定(※写真上、食品放射能スクリーニングシステムATOMTEXAT1320A、ゲルマニウム半導体検出器を使用)、内部被曝線量の測定(※写真下、ホールボディカウンタを使用)。「現在、測定依頼は少なくなってきていますが、放射性物質への誤解がひとつの原因かもしれません。たとえばボールボディーカウンタはセシウム134、セシウム137、カリウム40を検出しますが、一度不検出となっても、検査後、食事や呼吸などから新たに放射性物質を取り込む可能性が高く、定期的な検査が必要です」(岩田さん)

NPO法人CRMS市民放射能測定所 福島
※CRMS(Citizens’RadioactivityMeasurementStation=市民放射能測定所)
 市民の電離放射線からの防護の向上を目的として2011年7月に設立。すべての市民が放射線防護に関する知識を得て、放射能の測定法を学び、自律的に防護することができるようにするツールを提供している。医療・ケアの観点から「子どもたちを放射能から
守る全国小児科医ネットワーク」(代表・山田真)の小児科医らとともに、2011年6月から福島県をはじめとした国内各地域にて、健康相談会を開催している。
〒960-8034
福島市置賜町8-8パセナカMisse1F
ホームページ:http://www.crms-jpn.org

ふくしまオルガン堂で、福島の「農」を知ろう!

東日本大震災、原発事故から2年がたち、福島への関心も少しずつ薄らいできてしまっています。
そんななか、より多くの人に福島の現状や農業の取り組みを知ってもらおうと開店した
「ふくしまオルガン堂」の取り組みを取材しました。

福島の問題を自分のものとして考える
 東京・下北沢にある「ふくしまオルガン堂」は、福島の家庭料理やお酒が楽しめるコミュニティ&オーガニックカフェです。福島から避難している人のよりどころとして、また福島の現状や農について広く知ってもらおうと、今年3月に開店しました。
 ランチ限定の定食はなつかしいおばあちゃんの味。隣に座った人と気軽に会話が生まれるような雰囲気も魅力です。
 「福島の農家さんに教えてもらいながら調理しています。楽しい場所ですが、この店があること自体が緊急事態なんですよね。お米の農家を尋ねたとき、一生懸命つくったお米が売れ残って積み上げられている様子を見て、胸が締めつけらました。」と店長の阿部直実氏。
 「開店からまだ1ヶ月ほどですが、予想以上の反響です。」と運営団体、特定非営利活動法人福島県有機農業ネットワーク東京事務所の髙橋久夫氏。
 「岩手、宮城、福島と被災地をめぐったあと、最後に立ち寄ってくださった京都の方もいました。印象的だったのは、福島出身の、東京の大学に通う学生さんが、『福島の話を話題にすると場がしらけてしまう』とおっしゃっていたこと。東京では、3・11の事故について、あまり触れたくない風潮があるようです。もっと福島のことを気軽に話題にできる空気が必要なのではと思います。
 いま、放射性物質や原発問題と向き合わないことは、自分の生活と向き合わないのと同じことなのかもしれない。たとえば福島の原発でつくられた電気は、東京にいる私たちが使っていたのですから。決して他人事ではないんです。
 福島では、土地を去る人、留まる人……何十万人という人たちが、人生の大きな岐路に立たされています。特に多くの農家は、土地を捨てることができず、福島に留まって放射性物質と戦い続けています。
 福島だけではなく、全国の原発や、沖縄の基地でも同じようなことが起こっているかもしれない。私たちは、原発や基地を、その近隣の人に押し付けてきてしまった。今、日本で起きているさまざまな問題を、自分に引き寄せて考える想像力が、もっと必要なのではないでしょうか。」(髙橋氏)

自然の営みを壊すものに「NO!」
ふくしまオルガン堂を運営している福島有機農業ネットワークは、福島にある約80の農家が集まり、有機農業について研究している団体です。3・11後、福島に留まった農家の人たちは放射性物質の影響について独自に調査をしはじめ、どうしたら放射性物質の農産物への移行を防ぐことができるか研究を重ねてきました。そして昨年の秋頃からその成果が現れてきたといいます。
 「放射性物質の農産物へ移行がほとんどないといっても、雨風などの影響により山野に残っている放射性物質が移動し、その値が変化していくので、細やかな調査を継続的に行う必要があります。消費者へ測定値を公開し、その上で食べるかどうかの判断をしていただきたいと思います。」
 研究の結果、福島の土壌の性質上、農産物に放射性物質は移行しにくいことがわかってきましたが、農作業をする人は被爆してしまいます。被爆という大きなリスクの中で農作業を行う苦悩は計り知れません。
 「原発の放射性物質は、人間の手に負えない恐ろしいもの。放射性物質とくらべることはできませんが、化学肥料や農薬も生命や自然へ甚大な影響を与えるものです。私たちは有機という立場から、自然の営みを壊す全てのものに『NO!』と言っていきたい。大切なのは、3・11以前の元の世界を取り戻すことではなく、新しいその先の、自然を尊重して生きる社会をつくること。」
 福島の農の再生と、放射性物質によるリスクをどうとらえ判断するか……。まずは、現状を知り、向き合うことが大切です。

お客様との気さくに語らう店長の阿部直実氏。もともと神奈川県藤沢で福島の農産物を販売する支援活動を行っていました。
 
福島県有機農業ネットワーク、東京事務所の髙橋久夫氏。「オルガン堂の店名には、オーガニックと、対話と交流のハーモニーを奏でるという意味が込められています」。
 
ボランティアスタッフとお客様。定食についての解説を聞くのも楽しいものです。
 
ふくしま定食。左上から時計まわりに、3種の漬けもの(会津、二本松、南相馬の農家のおばあちゃんの漬けもの)、いかにんじん(福島農家のレシピ)、
おから(高郷・おはら豆腐のもの)、にんじんとしいたけとにしんの天ぷら、水菜と薄揚のみそ汁(南相馬の農家のもの)、こづゆ(お祝い事のための郷土料理)、菜花のえごま和え(喜多方産)、ごはん(喜多方産無農薬米)。定食のあとに、あんぽ柿のデザートも。材料は、主に有機のものを使用しています。栄養のバランスがよく、とってもおいしい!!
 
福島産の米や野菜、ジャムやジュースなどの加工品、有機に関する書籍の販売も行っています。

ふくしまオルガン堂
東京都世田谷区代沢4丁目44-2営業時間:12~18時
※18時以降は5名様以上のご予約の場合営業。21時閉店。
お休み:月曜・火曜
TEL:03-3411-7205
<お問い合わせ先・運営団体>
NPO法人福島県有機農業ネットワーク
福島県二本松市中町376-1
TEL:0243-24-1795

- 特集 - 2013年6月発刊 Vol.69

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