2014年8月30日(土)、日本でも数社しかない白醤油の醸造元である愛知県碧南市の日東醸造株式会社の蜷川洋一社長をお招きし、「しろたまり」を手作りする教室を開催しました。蜷川社長より伺った醤油の概略からしろたまりのお話、仕込みの様子などを紹介します。
「しょうゆ」にあらず「白しょうゆ」でもない「しろたまり」
日東醸造株式会社 蜷川 洋一 社長
醤油は、日本人に欠かせない調味料の一つですが、醤油の分類にどんなものがあるかご存じでしょうか? まず、醤油の国内出荷量の8割を占めるのが、“濃口醤油”です。一般的に「醤油」というと、多くの人はこの醤油を思い浮かべます。次点は関西圏でお馴染みの“薄口醤油”です。これは出荷量がグッと減って12%程度となります。その他に、中々聞き慣れないかもしれませんが、たまり醤油、再仕込み醤油、白醤油などがあります。“たまり醤油”は豆味噌のたまりをあつめたもので、味噌の香りがし、少しとろみがあります。“再仕込み醤油”は醤油の仕込み水に食塩ではなく醤油を使ったもので、熟成期間は長く、つけ醤油として好まれる、とても濃厚な味わいです。“白醤油”は200年ほど前に愛知県碧南市で発祥した醤油で、一番新しい種類の醤油となります。 醤油の原材料は、大豆と小麦と塩です。その比率と熟成期間や温度の違いにより、それぞれ違った特徴を持つ醤油が醸造されます。濃口や薄口醤油は、原材料が大豆と小麦5割ずつです。それに対して白醤油は、小麦95%・大豆5%と特徴的です。色が薄く、卵料理などと相性が良いため、板前さんなど料理人の方に好まれます。一般的には白醤油にだしを加えた“白だし”としてご存じの方も多いかもしれません。碧南市一帯でも、一般家庭では、白醤油は正月やお祭りなどの特別な時にしか用いられず、醤油といえばもっぱらたまり醤油なのだそうです。 JAS法では醤油の定義として、原材料に大豆を含むことが上げられます。今回作り方を教わった“しろたまり”は小麦100%のため、この醤油分類には当てはまらないそうです。そのため名称も「小麦醸造調味料」とされています。一粒でも大豆を入れれば醤油になるのですが、大豆を入れると醤油の色が濃くなってしまうため、しろたまり特有の美しい琥珀色を保つためには、小麦100%であることが重要なのです。そこには、醤油に分類されなくても「琥珀色のしろたまり」への想いを貫き通した、日東醸造の先代社長と蜷川洋一社長のこだわりがありました。
昔ながらの「しろたまり」を求めて
講座中の様子。まずは基本のお話から。
先代が「今のしろたまりは何かが違う」と感じたことから、昔ながらのしろたまりの探求が始まりました。 日東醸造では、元々は碧南の塩田で採取したミネラル分を含む塩を使っていました。しかし昭和46年の塩業近代化臨時措置法により、塩田による製塩法は廃止され、それまで使っていた塩は、イオン交換式製塩装置によって作られる、塩化ナトリウム純度99%のミネラルを含まない塩になっていました。そんな塩を使えば当然味も変化してしまいます。一時期は輸入の塩を使ったこともあるそうですが、現在では、しろたまりと一番相性が良かったという、伊豆大島の海の精を使用しています。 その他、麹と仕込み水の割合を変えたり、琥珀色が濃くなることを防ぐために原料から大豆を抜いたり、工夫を重ねました。また、上水道水ではない良質の水を求めたところ、標高720mの山間部にある豊田市大多賀町(旧足助町)というところで、地元の方も汲みに来るという美味しい水に出会います。最初は工場まで水を引くことを検討されたそうですが、偶然にもその井戸がある土地は廃校になっている小学校校庭だったため、蜷川社長はその旧校舎内に日東醸造足助仕込蔵をつくってしまいました。教室だった空間に醤油桶が並ぶなんて誰が想像したでしょう。そのような苦労の果てに、ようやく求めていた「昔ながらのしろたまり」が完成したのです。
しろたまりの仕込みと使い方
日東醸造の「しろたまり」
まず、塩の溶け残りを防ぐため、しっかりダマをつぶした状態から塩水を作ります。蜷川社長曰く「ここが一番重労働です!」とのこと。その塩水に小麦麹をいれて軽く混ぜます。会場での仕込み作業はここまでで、あっという間でした。 後日自宅で、空気に触れないようにしたり、重しを乗せたりという作業は必要ですが、その他は冷暗所で熟成させるのみと、とても簡単です。仕上がりの目安は仕込みから約3ヶ月後。ザルで濾して、できた液体がしろたまりです。1500㏄の仕込みで約600㏄程のしろたまりができます。
一番重労働の塩混ぜ、しっかり溶かします。
通常醤油は火入れ(加熱)により発酵を止め、殺菌をしますが、たまり醤油・白醤油・しろたまりなどは、アルコール添加によって制菌を行います。なお、自宅で仕込んだものは、アルコールを加えることはせずに冷蔵保存させます。
使い方としては、お吸い物や茶碗蒸し、卵焼きなど色の変化をさせたくない料理の他、煮物などにも合うそうです。原材料に大豆が少なく旨みよりも塩を感じやすいため、通常の醤油よりも少量で良いのが特徴です。
仕込みから1ヶ月後 熟成中のしろたまり
しろたまりを濾した後に残る諸味(もろみ)は塩麹のように使えるので、炒め物に混ぜたり、揚げておつまみにしたり、漬け床も使え、幅広くに活用できるそうです。何も捨てるところが無いのは嬉しいですね。 小麦100%の塩麹のようなものは未体験なので使いこなしてみたいと思います。参加された皆さまも、ぜひどんな仕上がりになったかご報告をお寄せください。
<らくなちゅらる通信編集部>