原発が世界でも例をみない過酷事故を起こした日本。もう、すでに世間の空気からはその話題は消えつつありますが、私は過去を根に持つタイプですので忘れがたいだけではなく、世界的にみれば汚染物を垂れ流し、また他国でビジネスを狙う無謀ものに映っていることでしょう。いずれにしても、原発はエネルギーコストを下げるという神話が産業界に生き残っていることにくわえ、立地場所に雇用とお金の流れを作り出すというじつによくできたストーリーが組み込まれています。あの事故以来、福島や沖縄に頻繁に出入りするなかで、原発賛成もしくは反対と唱えることよりも私がやるべきことがある、それは「第三の産業をつくりだす」こと、という根深い思いがあります。結局、産業が不足しているところに原発や基地は配置され、充分な産業がある地域に送電、もしくはその利益が流れていくという構図を打ち崩さない限り、何をいっても何も変わらないという現実があります。私が今の仕事を始めたときにも、化学物質はいらない、そういうことでの金儲けはよくないと叫んでみても、じゃあその代わりに何があるのかということを、広く、大きく伝え続けるしかないという気持ちだったことを思い出します。当時、買ったばかりの軽中古車を売却して手にした80万円だけを元手に、考えていることと、自分自身の実態があまりに乖離していることはさておきひたすら仕事に邁進しました。結果、13年が経過して約60名の関連スタッフがこの仕事に関与するに至っています。まだまだ弱小ではあるのですが、あと13年かければ、「這いつくばってでも、原発や基地以外の産業をつくってやる」という途方もない願いですら、1%くらいは叶ってくれるかもしれないと夢想しています。
そんな新たな夢は宮古島からスタートしました。宮古島には狭い島のなかに多種多様な薬用植物が自生し、または栽培されています。珊瑚礁が隆起してできた世界唯一の島ですから、地面はすべてもともとサンゴからできています。強いアルカリ性と排水性の土壌はやせすぎた土地ということになり、通常サトウキビや葉たばこの栽培には大量の農薬と肥料を用います。頻繁にやってくる台風は、山がない平たい島を襲い、暴風は植物を根こそぎなぎ倒し、海の水を島中に降り注がせます。サンゴのミネラルを吸い込み、倒されても、塩まみれにされてもそこで再生してくる植物の強さは特筆に値するものがあり、ものすごい栄養素と生命力を帯びています。さらに猛烈な紫外線が植物にストレスを与え続けますが、植物は自らを守るために抗酸化物質を大量に作り出します。人間にとっては痩せた、薬と助成金なしではどうしようもない土地は、植物に根性と再生力を与えてくれるのです。産業らしいものが何もない島は、見方を変えると実はお宝の山そのものものです。私は、この「隠れたお宝の山」こそ、この島を再生させる産業の起爆剤にしたいと考えました。素人まるだしで農産物の栽培も始めていますが、これは安全で活力ある食を島の自然を壊さずに提供するという側面であり、産業になるまでには何世代もかかることでしょう。今すぐできるのは、この島にすでにある何にも負けない生命力を、多種多様に組み合わせ製品にすることだと考えました。その結果生まれたのが16種類の薬草やフルーツをゼロから栽培または採取し、島内で抽出し、島内で製造してできあがったスピリチュアル&ナチュラルスキンケア「ひらら」シリーズです。人口5万人程度の島で、化粧品製造の行程を島内で完結させるということは無謀すぎるチャレンジでしたが、2年をかけてついに完成しました。まだ売り始めたところですのでとても産業とは言えないかもしれません。誰でも赤ちゃんだった時代があるように、まだよちよち歩きです。でもいつか、「人の役に立つことならば、緻密に思い描き、話し続け、やめなければいつか叶う」という原則を証明できるように、原発にも基地にも、助成金にも依存しない島でしかできない産業として花開くよう、育てていきたいと願っています。どうぞ、「ひらら」をよろしくお願いします。