読者の皆さんは、きっと食べ物を食べるときには五感をフルに生かして楽しんでおられることでしょう。私のような雑食かつ悪食な人間が偉そうに味についてなにかいうのは憚られるのですが、ありがたいことにプレマの自然食品シリーズであるプレマシャンティは、どの品も「他の自然食品とは味のレベルがまったく違う」と、食のプロフェッショナルはもとより自然食愛好の一般の方々まで、高い評価をいただいてきました。このシリーズ、発売開始から10年以上が経過するのですが、アイテム数は1000に近づき、売上もゆっくりではありますが右肩上がりを続けてきました。また、私がレシピ組みをするナチュラルジェラートについても、コロナ前にイタリアで毎年開催されていた味を評価する世界コンテストで連続受賞させていただき、行動や入国制限の多くが解除された今年に入ってからは、ありがたいことに以前のご来店数よりずっと多くのお客様に来ていただいて大人気となっています。京都にはレストランも開業させていただき、こちらは自然食品でも多用されている酵母エキスも含めて、自然ではない調味料は一切使わないというコンセプトで、連日過去最高のご来店をいただいています。チョコレートを進化させた「カカオレート®」も、ローストによって味を決めるプロファイリングというくり返しテイスティングをする作業があり、これが味と香りのハーモニーを決定するとても重要な部分になります。このようなことで、私自身の生活では味に対するこだわりは少ないのですが、むしろお客様に喜んでいただくという立場から、深く味わう、そして最高の味を決めるということについてはプロとして活動させていただいています。
暗闇で食する
日本には消防法などの関係で存在しないのですが、バンコクにはDine in the Dark(暗闇で食する)というレストランがあります。日本では同様の取り組みでダイアログ・イン・ザ・ダークというイベントが開催されています。このイベント、私が説明するより端的に解説されているので公式サイトから転用させていただきます。目以外のなにかで、ものを見たことがありますか?
この場は完全に光を閉ざした「純度100%の暗闇」。普段から目を使わない視覚障害者が特別なトレーニングを積み重ね、ダイアログのアテンドとなりご参加者を漆黒の暗闇の中にご案内します。視覚以外の感覚を広げ、新しい感性を使いチームとなった方々と様々なシーンを訪れ対話をお楽しみください。1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によって生まれたダイアログ・イン・ザ・ダークは、これまで世界47カ国以上で開催され、900万人を超える人々が体験。日本では、1999年11月の初開催以降、これまで24万人以上が体験しています。暗闇での体験を通して、人と人とのかかわりや対話の大切さ、五感の豊かさを感じる「ソーシャルエンターテイメント」です。私は仕事のからみでバンコクでの「真っ暗闇で食べ物を食べる」という経験をさせていただいたことがあるのですが、それはもう驚きの連続でした。私たちは、食べて味わっているつもりなのに、実のところ、特に視覚、つまり「見た目」に大きく左右されていろいろを判断しているという事実です。もちろん、食は視覚でも楽しむものという原則は正しいのですが、むしろ見た目というのは先入観をも導き出しやすく、味覚を駆使しているつもりが、実はそうではなかったりするのです。「そんなバカな」と思われることでしょう。しかし、体験されるとわかるのですが、ほんとうになにも見えないと、いったいなんの味かがわからないことがあるのです! 私もできればジェラートを純度100%の暗闇で食べていただくという企画をやりたいと思ったことはありますが、法整備が特定の部分ではとても厳密、かつ杓子定規で融通の利かない日本のこと、いまのところ実現は叶っていません。いずれにしても、誰もがすぐにできる経験ではありませんので、今月はひとつだけ、簡単な方法をご提案したいので、ぜひやってみてください。
目を閉じて、なにかをゆっくり味わって食べる
お伝えしたいのは、ただこれだけです。たとえば弊社のカカオレート。安物でフェイクなチョコレートはバリバリ食べるとおいしいのですが、カカオレートを食べるときには、まずしっかり目を閉じてください。それから、「味覚と嗅覚、体感覚を最大にして味わうぞ!」と考えながら、カカオレートを指で掴んで口にいれてください。ゆっくり、とてもゆっくり口の中で溶かしながら、舌や口内でその味や広がりを感じつつ、吸う息、吐く息でどのような香りがするのか、時間の経過ごとに、味と香りがどう変化するのかを感じていただきたいのです。食べ終わったら、そのまま目を閉じて、リラックスしてください。手の先、足の先になにを感じるのか、カカオレートはご自身になにをもたらしたのかを、しっかり観察してください。それを感じてから、目をあけてください。視覚、つまり「見た目」はどれだけご自身の感覚を鈍らせているのか、少しだけ体感いただくことができます。見えることは素晴らしいことですが、いっぽうで、なにかの感覚を曇らせていることがご理解いただける体験となれば幸いです。