有機農業でつくられたものやオーガニックのものが健康にいいと聞きますが、そもそも有機農業とはなんでしょうか?(野菜と果物が大好きな40代主婦)
答える人 プレマ株式会社 お客様コンサルティングセクション 岸江 治次
健康で安全かつ持続可能な未来への第一歩
今、「有機農業」や「オーガニック」という言葉がとても注目されています。しかし、イメージばかりが先行し、有機農業の本質が忘れられているように感じます。
歴史を振り返ると、人類は狩猟や採集から始まり、農業を発展させてきました。牛や馬の力を借りて土地を耕し、牛糞や馬糞を堆肥として利用することで土壌の健康を保っていました。堆肥は有機肥料なので、そもそも人類は有機農業をしていたということです。日本の農業の歴史は、1945年の敗戦後に大きく変化しました。戦後、日本は食糧不足に直面し、国民を飢えさせないために早急に大量の農産物を生産する必要がありました。このため、化学肥料や農薬の使用が奨励され、1961年に施行された農業基本法により、これが制度化されました。政府は農協を通じて化学肥料や農薬を積極的に使用して生産効率を高めることを奨励したのです。しかし、その過程で公害問題が発生しました。特に有名なのが水俣病です。これは化学肥料を製造していた会社が製造過程で有機水銀を漏らし、環境を汚染したことによるものです。この問題の背景には国の政策があり、政府は問題を認めたがらず、長い間議論が続きました。最近でも、大臣が謝罪する場面がテレビで放映されるなど、未だに解決していない問題です。
世界でも産業革命以降、農業は機械化され、化学肥料や農薬が導入され、さらに品種改良がおこなわれることで生産効率が飛躍的に向上しました。そんななか、1962年にアメリカで発表されたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』が、化学物質の過剰使用が生態系に深刻なダメージを与えることを指摘し、世界的に大きな反響を呼びました。また、同じく1970年代に有吉佐和子さんによって書かれた『複合汚染』という作品がありますが、これは実際の農業生産者が化学肥料や農薬を使用することで発生するさまざまな弊害や食品添加物の問題を描くとともに、化学製品は一つひとつはそれほど害がないかもしれないが、大量に使用し複合的に作用するとどのような影響が出るかという問題提起をしています。
こうして化学肥料や農薬の弊害が明らかになるとともに、限られた地球環境を守るために世界中で環境保全の重要性が認識されるようになり、環境保全型農業が目指されるようになりました。これが現代の有機農業のスタート地点であり、本質といえるでしょう。日本でも遅れながらも1999年に有機JAS法が制定され、有機農業に対する明確な定義が与えられました。これにより、有機農業の基準が明確化され、環境に配慮した農業が推進されるようになりました。
有機農業は、環境に優しく、土壌の健康を保ち、生物多様性を守ることを目的とする持続可能な農業です。土壌の微生物が活発に働くことで、作物は自然の力で健康に育ちます。現在、日本の有機食品の消費は他国に比べてまだ少ない状況です。しかし、世界的にはオーガニック志向が強まっており、日本でも有機農業の重要性がますます認識されるようになっています。有機農業は環境保全だけでなく、私たちの健康と安全にも直結しています。質の良い食材を選び、健康を維持することが、持続可能な未来への第一歩です。皆さんもぜひ、有機食品に注目し、日常生活に取り入れてみてください。