先月の号から妊娠・授乳期に注目される栄養素について書いています。前回は葉酸と鉄について書きました。今号はそれ以外の栄養素に触れます。
タンパク質
タンパク質の必要摂取量は妊娠中では約30%増加します。これは1日で10〜20gの量に相当します。増加分を肉や魚、乳製品、卵から摂れば、それらの食品に含まれる細菌や家畜に使われた成長ホルモン、抗生物質などを体に入れる心配があります。さらに一緒に摂ってしまう脂質のカロリーにより体重増加につながります。タンパク質は豆と豆製品、ブロッコリーを代表とする緑の濃い野菜など高タンパクの植物性食品を意識的に増やすことで簡単に補えます。タンパク質をサプリメントで摂ることは誰にとっても推奨できません。特に妊婦には有害です。
ヨウ素
ヨウ素は胎児と小さい子どもの健康な脳の発達に必要不可欠です。妊娠中はヨウ素の必要量が増加するので、母親と赤ちゃんに適切な量を賄う必要があります。海藻を食べる習慣のない地域ではサプリメントを推奨する場合もありますが、日本人は海苔や昆布、わかめ、もずく、めかぶなどバリエーション豊富な海藻を食べる習慣が定着しています。妊娠中は特に意識して食べましょう。
オメガ3脂肪酸
この栄養素は赤ちゃんの脳と網膜が適切に発達するために重要な役割を果たします。PBWF(プラントベースホールフード)では、フラックスシードやくるみ、えごまなどから摂取できます。オメガ3脂肪酸は魚に含まれるため青魚からの摂取が推奨される場合がありますが、魚は水銀やPCB、放射性物質などで汚染されている危険性が高く、毒物は油に溶けるため、魚からの摂取はお勧めしません。EPAやDHAは魚が合成するわけではなく、藻が生成し、その藻を魚が食べるため魚に含まれるのです。間の魚を抜いて藻を食べればオメガ3は摂取できます。前述のヨウ素同様、意識的に海藻を食べるようにし、もしサプリメントを使うなら魚油を原料としたものではなく、海洋汚染の心配がない水槽内で栽培された藻を原料とした製品を選んでください。
その他の栄養素
ビタミンB12の不足は妊娠中と授乳中においては巨赤芽球性貧血を起こしたり、神経系に影響を及ぼしたりする可能性があります。乳幼児の場合は発達遅延が起こることもあるので、妊娠中から授乳中の女性は不足しないように特に気を配ります。カルシウム、マグネシウム、亜鉛などの微量栄養素も妊娠前より多くの量が必要になります。
内容と量に気を配ったPBWFの食事を摂っていれば、妊娠期に必要量が増した栄養を正しい割合で得ることができます。植物に含まれる多くの栄養素は関連し合うことで大きな栄養効果を生み出します。栄養素単体を取り出した錠剤を摂ってもその栄養素を含む植物そのものを食べるほどの栄養効果は期待できません。妊婦用サプリメントではビタミンやミネラルが1日許容量の2〜5倍の量が含まれる製品もあるようです。そのなかの栄養素は容量が多すぎて母体や赤ちゃんにとって安全でないかもしれません。サプリメントは決して健康的な食事の代わりにはなりません。どうしても不足するなら、本当に必要な栄養素のサプリメントを適切な量摂るようにします。
PBWFの食事を摂っているかどうかに関わらず栄養の過不足があるかもしれません。私のクリニックでは侵襲が少なく比較的短時間でおこなえる検査を揃えています。栄養外来では栄養チェックのサポートもおこないます。これから妊娠を希望する人も妊娠中の方もご自分の栄養状態を確認してみてください。