累計122万件出荷!自然食品・自然療法・エコロジー・らくなちゅらる提案サイト

ながれるようにととのえる

身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話

やくも診療所 院長・医師

石井恵美 (いしいえみ)

眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階

心のシェルター

投稿日:

医師になったばかりのころ、まるで病院に住んでいるかのような毎日を送っていた。眼科の病棟のストレッチャーの上で眠ってしまい、気づいたら朝になっていたこともあった。家の玄関に倒れ込んで寝ていたこともある。この時期は、がむしゃらに医師としての経験を積む時間であった。そんな風に夢中になれたのは、社会がそれを寛容に許していた時代だったからだ。

そして、自分が医師としてやりたいことを実現するためには、内科医としての学びが必要だと感じ、眼科の医局を離れた。その後、内科医としての研修を開始するまでに空白の時間があった。そのなにもしない時間が怖かったのがいまでも記憶の片隅に残っている。猛烈に働くことが社会人として、医師として当然だという価値観が、自分を不安にさせていたのだろう。そのため、自分で診療所を始めた際にできた自由な時間を、当初はあまり心地よく感じられなかった。診療所を始めて15年が経った今、ようやく自由な時間を心地よいものと感じられるようになった気がしている。

本を読んだり、映画を観に行ったり、友達とラグビーを観に行って大声で応援したりすることも、自分を取り戻す時間である。その一方で、ただひたすらぼーっとしたり、のんびり空を見上げたり、雲のうつろいゆくのをぼーっと眺めたり、庭の雑草を無心にむしったりする。一見なにも生み出していない時間もまた、生きるエネルギーを整えるひとときだ。それらの時間や記憶は、忙しかったり、極度の緊張で消耗したりしているときに、少しずつ自分の内なる元気を呼び覚まし、後押ししてくれる。

長い間、無意識に感じていた、なにもしない、なにも生み出さない時間への恐れに気づくことで、自分にかけてしまっていた呪いが薄れていくような気がしている。漢方では、恐怖という感情は、腎臓、膀胱の経絡に関係するといわれている。怖いという感情が前面に出るときは、心だけでなく、身体も整う必要があるというメッセージでもある。そんなときに「無理をしてがんばってなんとかする」ような力の入り具合でいると、なかなか出口が見出しにくい。

だいじょうぶだよの呪文

小さいときから融通の効かない頑固な子どもだった。その反面、大人の顔色をうかがい、外ではちゃんとした子どもだった。そのため、うまく表現できない心の葛藤を自分の内に向けていた記憶がある。今になって振り返ってみると、とても自分で自分を生きにくくしていた。そして、葛藤する悶々とした思いを、母親にぶつけてしまっていた。勘の鋭い母親なので、見透かされているような気がしていたのだろう。自分の心の問題に付き合わせてしまったことを、申し訳ないと感じている。

父が亡くなる直前、当時在籍していた病院から、新たな場所で漢方外来を立ち上げることを提案された。父に残された時間があまりないのを実感していたので断ったが、悶々としていた。そんなとき、父は細かいことを聞かずに「だいじょうぶだよ、おまえは」と言ってくれた。当時はなにを根拠に言っているのかと思った。しかし、今になって感じるのは、「おまえならだいじょうぶだよ」という父の言葉が自分の心の深いところで、呪文のように繰り返されている。それはまるで父がいつも見守っていてくれているように感じるのだ。

『今日、誰のために生きる?』という本のなかで、アフリカのブンジュ村では、「あなたのことを、信じている」が村の合い言葉のように使われていると書かれていた。「人の背中を一番押してくれるのは『信じている』って言葉だよ」とも書かれていた。これからは、自分に対しても、関わり合う目の前の人にも、信じる思いを少しでも言葉にしていけたらいいなと思う。

- ながれるようにととのえる - 2024年9月発刊 vol.204

今月の記事

びんちょうたんコム

累計122万件出荷!自然食品、健康食品、スキンケア、エコロジー雑貨、健康雑貨などのほんもの商品を取りそろえております。

びんちょうたんコム 通販サイトへ