「サーノ博士のヒーリング・バックペイン」という本があります。この本では、腰痛の治療で有名なサーノ博士が、緊張性筋炎症候群という概念について詳しく解説しています。緊張性筋炎症候群とは、腰痛だけでなく、体のさまざまな痛みやしびれの原因が、血管の収縮による患部の虚血状態によるとされています。そして、その原因は「怒りの抑圧」だそうです。
つまり、心の中に抑え込んでいるネガティブな気持ちや怒りが、筋肉の緊張を引き起こし、腰痛や肩こり、首こりなどの痛みやしびれにつながるのだといわれています。実際に診療していると、このような症例が意外と多いと感じています。体の痛みや病気の出発点のほとんどは、心のなかにあるのだと確信しています。
心の緊張は、さまざまな原因から起こります。長い間、心のなかで続く緊張は、心と体に大きな影響を与えます。ネガティブな気持ちを無視したり、ポジティブになろうと我慢することは、誰にでもよくあることです。ネガティブな気持ちは、感じること自体がつらい経験なので、できるだけ早く解決したいと思いますよね。そのためには、問題の原因を外の世界に求めて、現状を変えようとすることが一般的です。しかし、実際のところ、外の世界の出来事と自分の感情は、思っているほど直接的に関係していないのです。同じ出来事でも、人によって感じる感情はまったく違うこともあるのです。
外の世界を変えたとしても、自分の過去の経験から得た信念は変わりません。だから同じような出来事が起きたら、当然同じような反応やネガティブな感情に苦しむことになります。だから、ネガティブな気持ちを軽くしようとしても、外の世界に働きかけるチャレンジだけではうまくいかないのです。
ネガティブな気持ちを感じないように、無視したり、心の奥に押し込んで感じていないふりをすることも、よくやりがちです。外から見れば上手に振る舞っているように見えますが、心はいつもザワザワしているのです。ネガティブな感情が湧き上がってこないように筋力で押さえ込んでいるため、筋肉が緊張し、緊張性筋炎症候群が引き起こされます。もし同じことが内臓で起これば、内科の病気にも関わってきます。
ほとんどの人は、抑圧した感情を持っていると思います。自分では気づいていないふりをしていても、心のどこかに不安や恐怖、寂しさ、イライラなどの感情を抱えています。感情を押し込めても、その感情の断片はどこかから出てきてしまいます。その感情の断片を感じたときには、「私は本当は〇〇という感情を持っているんだなぁ。そうだよね、そう思うのは当然だよね」と自分の感情を受け入れましょう。そして、我慢していた自分をねぎらってあげましょう。「今までよく我慢してきたね、えらいね」と自分自身をいたわってあげましょう。
自分の本当の気持ちを感じないようにすることは、ある意味で自分に嘘をつくことでもあります。だから、自分に嘘をつかずに、心に浮かんだ思考や感情をそのまま受け入れることが大切です。たとえば、「あんなヤツ消えてしまえばいいのに」と思ったら、「そうだよね、そう思ってしまうよね、そう思っても普通だよ」とその思考を認めてあげましょう。どんなネガティブな思いも、それは自分自身のものです。心のネガティブな部分を拒絶することは、自分自身を否定することです。自分を否定すると、エネルギーが激減してしまいます。エネルギーが減ると、生命力や治癒力も低下することになります。
「人間には良いところも悪いところもあって当たり前! なにか文句ある!?」と自分を一切責めなくなるまで、自身を受け入れる練習をしてみましょう。すると、心の負担が軽くなり、より健康的な状態に近づいてきます。自分を大切にして、自然な感情の流れを大切にしましょう。