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鍼療室からの伝言

鍼灸師の西下先生による陰陽や自然食。二十四節気など古来の智恵のお話

圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー

西下 圭一 (にしした けいいち)

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。

じかんどろぼう

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「時間がない」とは、現代に生きていてだれしも共通する悩みでしょう。忙しいときに限って、飛び込みの営業マンが訪ねてきて、手を取られることもあるかもしれません。

先日、午後からの診察に向けての準備をしているときでした。以前から知っている営業担当さんが「ほんの少しだけ、5分でもいいですから」と訪問。「午後診最初の患者さんがそろそろ来られるので、本当に5分だけなら」と手を止めました。

「ピピピ、ピピピ……」。5分以内では終わらないだろうと、咄嗟に手元の携帯電話でセットしたタイマーが鳴り始めました。しかし、話を止める気配がないので、「時間切れなので、また」と伝えて、お引き取り願いました。すると、去り際、「変わってますねぇ」と言われてしまいました。

なんでやねん。

約束を守る人との約束

状況に応じ、場合によっては対応を変えることを「臨機応変」といいます。「5分だけ」と時間制限があるなかで、「今年の夏も暑かったですね」などと雑談を始めてしまい、どうでもいい話で時間切れを迎える。本題に入ることすらなかったのでは、時間の無駄と言わざるを得ません。5分ですらもったいなかったと思ってしまいます。挙句に変人呼ばわりされて、この日の訪問はマイナスに作用することはあってもプラスに働くことはないでしょう。

彼と入れ替わるように午後の予約の患者さんがお見えになったので、タイマーのセットは正解でした。約束を守る人との約束を守れたわけです。約束を守れない人のせいで、約束を守る人との約束が守れなくなってしまうのでは、おかしなことになります。

限られた時間のなかで、なすべきことをしていくための効率化。大切なことに時間をかけられるように、どうでもいいことから効率的にこなしていくことです。優先順位の高いことを躊躇しなくてもいいように、優先順位の低いことから我慢したり削ったりするのです。また、大切なことを効率的にやってしまうのもおかしなことです。大切なことを大切にできなくなるのは効率化ではないでしょう。

ドイツの作家ミヒャエル・エンデによる児童文学作品に『モモ』という話があります。みんなの話を聞いてあげることのできる主人公の少女モモを中心とした物語に、「じかんどろぼう」がやってきて話が展開していきます。「時は金なり」が描かれていて、時間を大切にすることが理解しやすい童話です。

時間を大切にする。それは大切にしたいものを大切にすることにつながります。自分を守るため、自分が大切にしているものを守るために、「じかんどろぼう」から身を守ることも必要なのです。

昨日と今日と明日

禅の言葉に「昨日今日不同」とあります。昨日と今日は同じではない。昨日の自分より成長した今日の自分になるために、その日の気づきや思いを大切にしていくということです。

昨日と同じ今日はない。同じ日など一日としてありません。小さなことでも、その日にしかない気づきがあるはずで、それらを大切にしていくのが成長することでしょう。

一方で、昨日大切にしていたことで、今日も大切にしていることもあるでしょう。それこそ自分にとって本当に大切なものであり、やがては自分にとっての軸となるものでもあります。大切にしたいと思っていたのに、明日にはなくなってしまうものだってあるかもしれません。

昨日、大切にしていたもので、今日も大切にできるものはなんでしょう。今日、大切にしているものを、明日も大切にできますように。

- 鍼療室からの伝言 - 2024年11月発刊 vol.206

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