「No Pain, No Gain(痛みなくして得るものなし)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?
「苦労の上に成功あり」とも理解できるこの言葉を、私は長年「当然の教訓」として受け入れ、生きていました。極貧家庭に生まれた苦労人の両親から、「苦労は買ってでもしろ」と教わり育てられ、犠牲を払わなければ成長はできないと固く信じていました。
読者の皆さまのなかにも、同様の信念でご自身を厳しく律し、たゆまぬ努力によって多大なる成果を手にしてこられた方も多いと思います。しかし、歳を重ねるにつれ「これまでのやり方はしんどい」「もうちょっと人生を楽しみたい」「もう疲れた」と感じることもあるでしょう。そのような場合は、「No Pain, No Gain」の信念を少しの間だけ脇におき、続きを読んでいただければと思います。読み終わるころには気持ちが楽になると思います。
どちらかでは満たされない
私の個人セッションを受けてくださった絢子さん(49才)のストーリーをご紹介します。絢子さんもまた、「痛みなくして得るものなし」の信念に基づき、学業も仕事も人一倍の努力をしてこられたおひとりでした。有名大学を卒業し、だれもが知る大手企業に就職。管理職として大きな部門の立ち上げを任されるまでに昇り詰めましたが、あまりの重圧と激務で憔悴し、休職を経験しました。入社時からつねに仕事を最優先にし、平日も週末も休みなく仕事に専念。そのためプライベートは後回しで、小旅行をしたくても、休むことに罪悪感を覚え、断念してしまうほどでした。
そんな絢子さんに転機が訪れました。ある日のセッションで、ご自身の人生の8つの分野(成長、娯楽、環境、健康、仕事、お金、友人、伴侶や家族)に関する満足度を10段階評価で数値化していただきました。そして、最も満足している分野と、一番向上させたい分野を一つずつ選んでもらいました。
絢子さんは、「仕事」にはすでに満足していることに気づき、「娯楽」の分野を向上させたいと感じました。そこで、娯楽の分野がどうなったら満足度が10点満点になるのかと尋ねたところ、「絵を描きたい」「◯◯展覧会に行く」「友人ともっと時間を過ごす」など、本当はやりたかったことを嬉しそうに語り出したのです。そのエネルギーは、いまにも行動し始めそうな勢いでした(実際、ほぼすべてを2週間で実現しました)。さらに、「娯楽」分野が10点満点になれば、「残る7つの分野すべても向上しそう! 人生全体がよくなるんですね」と、興奮気味に話してくれました。
セッションの最後に、絢子さんは言葉を噛み締めるように語ってくれました。「私、なにかを得るためには、なにかを犠牲にしなきゃいけないって、これまでずっと思っていました」「でも、本当はどれも大切にできるんですね。諦めなくていいんですね」絢子さんの表情は、内側から発光するような美しい輝きを放ち、部屋までパッと明るくなったようでした。
絢子さんも信じた「No Pain, No Gain」という信念は、トレードオフです。「なにかを得ると、別のなにかを失う」「一方を尊重すればもう一方が成り立たない」という、両立不可能という考えです。だから、この信念を無意識でも強く握りしめていると、心が満たされないのです。どんなに成果や成功を得たとしても、「なにか満たされない」という焦燥感に駆られて、さらにトレードオフを強化する行動に走りがちなのです。
そこでご提案したいのが、「満たされないループ」からの脱出に有効な方法です。それは、「たとえば、どちらも叶うとしたら?」と自問することです。「両立可能」という前提の質問です。非常に効果的ですので、まずは毎日一回から始めてみませんか?