笑顔の羽鹿秀仁氏。
「中川社長とは青年海外協力隊に出発する前にインドに旅したときに知り合い意気投合。
その後、連絡が途絶えましたが、農業に挑戦すべく悩み始めたころに、インターネットで、
食について検索していたら中川さんのコラムに辿りついたのです。
大切な転機に再会できました」と語る
農薬や除草剤を一切使わずに育てたお米は刈り取ったのち、はざにかけるという昔ながらの天日乾燥をしておられる羽鹿さん。
お米作りを始める前までは、サラリーマンを経て青年海外協力隊員やNPO団体ネットワーク『地球村』のスタッフだったのだそう。
そんな羽鹿さんに農業を始めた経緯や想いなどについて伺いました。
まったくの未経験から13年前に農業を始めました。
そのきっかけとなったのは、青年海外協力隊員として貧困や環境問題と関わってきたことでした。
最初に海外に行ったのは、大学在学中のこと。
一年休学してバックパッカーとして世界一周しました。
地球の大きさを感じたくて、神戸発、横浜経由ホノルル行きの船で出発。
アメリカ、カナダ、中南米、インドなどに旅しました。
このとき世界中のいろいろな方にお世話になり、「いつかご恩を返したい」と思っていました。
大学卒業後は、コンピュータの営業職に就きました。
その間、赤い羽根や国境なき医師団に募金したり、フォスターペアレントになったりしましたが、やはり現場に出たいと思っていたところ、青年海外協力隊の存在を知り30代で応募しました。
赴任先はニカラグアで、職種は経済。
コンピュータの専門学校兼職業訓練学校で、会計の授業を受け持ち、教科書制作プロジェクトに関わりました。
このニカラグア赴任中に、ハリケーン・ミッチによる、二万人近くが亡くなる大きな災害が起こり、協力隊とは別に支援活動をしました。
それまで世界の貧困問題は経済の発展により解決すると思っていました。
経済が発展している国では紛争が起こりにくいためです。
しかし、ハリケーンの原因を突き詰めていくと地球温暖化などの環境問題に辿りつきました。
地球温暖化により一番被害を被るのは貧困層なのです。
その後、パナマでの二度目の青年海外協力隊員を経て、帰国後、大阪にあるNPO法人「ネットワーク地球村」に就職。
環境問題が日本人である私たちの暮らしにも大きく関わっていることを知りました。
現地で支援して喜んでいただいているものの、日本に帰国すると当たり前のように車や電気を使っている。
そんな豊かな生活のために、貧しい国々からいろいろ奪っているのではないか、という疑問を感じ、まずは自分が食べるものを作るところからスタートしたいという気持ちで動き出しました。
とはいえ私の実家は農家ではなく田んぼがあるわけではありません。
それでも行動するしかないと思い、伝手を頼って丹波篠山や三重県名張市にある赤目自然農塾など、手当たり次第に訪問しました。
偶然、自然農塾の近くで有機栽培をしているグループがあると聞き、その代表の伊藤伝一さんを知りました。
まったくの飛び込みでの訪問でしたが、温かく迎え入れていただき、農法や農業機械の使い方を教わり、サポートしてもらいながら、最初は約3反(3000平米)から農業をスタートしました。
知り合いがたくさん手伝いに来てくれ、がんばっていると先輩農家さんから使わなくなった農業機械をいただくこともあります。
猪の獣害に悩まされたり、はざかけしたお米の乾燥度合いがわからなかったりなど苦労したことも多々ありますが、初めて自分で作ったお米を炊いて食べたときは、涙が出るほどうれしかったです。
頭ではできるとわかっていても、実際に作ってみてできあがる!という体験とは、まったく別のものでした。
頭でっかちになっていることって、きっとものすごく多いのでしょうね。
農業を始めたときは、環境問題や世界の貧困について伝えたいという思いが強かったのですが、今は、農業体験に来てくれた人が興味を持ってくれそうな話をするようにしています。
農業体験を通して、農業や環境の大切さ、自分たちの生活が世界の貧困とつながっているということに、自分で気づくきっかけになるようにしています。
ただ人から聞いて知った知識よりも、自分の体験のほうが何倍も次の行動につながると経験から感じているからです。
40歳を過ぎて農業を始めることに不安がなかったのかとよく聞かれますが、「やりたい!」という気持ちに素直になることが大切だと思います。
また、前出の「日本での豊かな暮らし」についての疑問があったからこそ動き出せました。
そして、いろいろな国で学んだ「何とかなるやろ」という根拠のない自信も支えになってくれました。
現在、田植えと稲刈りの農業体験を受け入れています。
これからは生産者と消費者が、互いに顔の見える関係を作っていきたいと思っています。
今の社会は生産者、消費者の関係が目に見えなくなってきており、それが「安けりゃいい」「見栄えが一番大切」と考えてしまうという問題を生んでいると思います。
生産者側は「あの人に食べてもらうために安全でおいしいものを作ろう」、消費者側は「あの人が丹精込めて作ってくれたものだから大切に味わおう」と思えるような、お互いの関係性が見える社会になれば、世界は大きく変わってくると思います。