食事のとき、ひとくちにつき30回噛むといいとよく聞きます。消化がよくなるのはわかりますが、ほかにも身体にいいことがあるのでしょうか?(山形県・堅いせんべいが大好きな40代主婦)
A.身体にいいことづくめなので、ぜひ習慣化を
答える人 プレマ株式会社 お客様コンサルティングセクション 岸江 治次
食事のとき、噛む回数を意識していますか? 健康管理のために気をつけることとして、食事、睡眠、運動の3つがよく言われます。なかでも運動は歳を重ねるほど大事になってきますが、普段から歩いたり、ストレッチをしたりして身体を動かしていても、顎を動かす、つまり噛むことは忘れられがち。しかし、健康管理で一番大切なのは噛むことです。身体を動かすだけでなく顎を動かすことも大事な運動のひとつとしてしっかり意識しましょう。
「よく噛むと健康にいい」ことは、今から100年ほど前にアメリカに住んでいたフレッチャーという人が、「噛む健康法(フレッチャーイズム)」として世界に広めました。彼は肥満に悩み、いろんな健康法を調べて、イギリスの元首相の「ひとくち食べるごとに歯の本数分だけ噛むと健康になる」という言葉に倣って実践しました。すると半年で30kgもの減量に成功。彼は心臓の調子が悪いなど生活習慣病を抱えていましたが、よく噛むことで無事健康を取り戻しました。「噛む健康法」が日本語訳された1940年代、時を同じくして放送されていたラジオ英会話のテーマソング「カムカム(噛む噛む)エブリバディ」と見事に合致し、日本でも一躍ムーブメントが起こりました。
このフレッチャーの話からもわかるとおり、よく噛むと身体にいいことがたくさんあります。まず、少食で済むこと。物を食べてから満腹中枢が刺激され満腹感を得るまでには15~20分ほどのタイムラグがありますが、よく噛んでゆっくり食べることで脳が満足し、心も身体も満たされます。腹八分目がいいとよく言いますが、これには科学的なエビデンスがあります。20年間、満腹になるまで食事を与えた猿とカロリー30%カットの食事を与えた猿との違いを比較すると、満腹になるまで餌を与えた猿のほうが、見た目も太り過ぎで毛や肌の色も悪く、老化が進み寿命が短いことがわかっています。少食で済むとダイエットにも効果的です。
次に、栄養が吸収しやすくなること。いくらよい食べ物を選んでも、きちんと栄養として吸収されないと意味がありません。「消化」という字のとおり、食事をすると、もとの素材は「消」えていろんな栄養分に「化」け、必要な栄養だけが吸収されます。そして、よく噛むと、食べ物が物理的に細かくなると同時に唾液が出ます。その唾液のなかの酵素が働き消化を早めてくれるうえ、内臓の負担を軽減します。さらに、栄養がきちんと細胞に届いて生理機能も高まり元気になれる、細胞の新陳代謝が活発になって美肌効果も高まるなど、まさにいいことづくめです。唾液は、食べ物に少々毒素があっても解毒することができ、30回噛めば発がん性物質が不活性になるといわれています。30回は「歯の本数くらい噛む」とも一致しますね。さらに、よく噛んで顎を動かすと脳の神経が刺激されて脳機能の維持に役立ち、認知症などにもいいです。
「噛むと身体にいい」というのは、基本のきのそのまた基本。よく噛む習慣を身につけるようにし、健康なときならひとくち30回、体調が悪ければ100回でも200回でも噛めるだけ噛むようにしましょう。歯が悪ければ無理をして硬いものを噛まなくてもよいので、咀嚼することが大事です。食べ物も人の話も鵜呑みにしないで咀嚼する、自分で噛んで理解してから判断するようにしましょう。