気候風土の影響を受ける果実
植物油脂にはゴマや菜種などの種子原料のもの、アーモンドやくるみなどナッツ原料のもの、アボカドやオリーブなど果実原料のものがあります。オリーブオイルは果実を搾るのが特徴で、水分を多く含んだ実から数パーセントの油分を抽出します。それら原料の生育環境が味に影響することは、あまり知られていないかもしれませんね。
植物は土の環境を顕著に反映します。土は、地形や地質、降雨量や日照などの気候風土が影響します。イタリアはもちろんスペインやギリシャで、その土地のオリーブオイルを試しましたが、味わいの違いに驚いたものです。日本酒も、原料の米は地域の土地柄と気候風土に合う品種が作づけられていますが、品種だけでなく土地により味わいが違いますよね。イタリアのワインも同じです。原料のブドウは、ほぼイタリア全土で作られていますが、地区により栽培される品種が異なり、それぞれ個性豊かな風味と味わいを持っています。フランスでは、その地区の地質・地勢、気候風土に影響する植物の生育環境を『テロワール』と呼び、ブドウの育つ環境が、味と風味に非常に重要な影響を与えることが知られています。
さまざまなオリーブオイルを味わってきましたが、味わいや風味はテロワールによるものが大きいと感じます。「オルチョサンニータ」の故郷、南イタリア・べネベント州(南部の内陸部)に初めて訪れたとき、その土質に驚いたものです。丘陵地帯にあるべネベントはブドウかオリーブしかできない土地。掘っても掘っても直径10㎝ほどの石がゴロゴロと出てくる土地で、土より石の割合が多いほど。根菜類はもちろん、トマトを育てるのも難しいそうですが、オリーブにとっては好都合。石のお蔭で水はけがよく根が延び、丘陵なのでいつも風がそよぎます。乾燥した風はオリーブの病気を防ぎ、しっかり張った根が養分をたっぷり吸うことができます。多少の気候的ストレスがあっても生命力が強く木は弱りません。そんな土地でできたオルチョサンニータは甘みがあり風味豊かでフルーティ。南部はもともと降雨量が少なのですが、みずみずしいオイル……といいますか「水が満ち満ちた中でできたオイル」と表現できると思います(決して水っぽいという意味ではありません)。対して、「イルフィーロディパーリア・わら一本」が造られる中部イタリアウンブリア州は、南部とは異なり、黒みを帯びたしっかりとした土質。力強く完熟し、収穫してもスパイシーな力強い風味と味わいのオイルを作ります。
除草しないから暑さに強い
土づくりも肥料や除草などセオリーは生産者の数だけあり、それにより生育環境は異なります。除草され露出した土地では、夏の直射日光で水気が奪われ、ブドウもオリーブも苦しそうに見えます。オルチョサンニータも、わら一本も、除草はせず自然まかせ。草に覆われ、雨が一滴も降らない夏も朝露をもたらすほど保湿し、微生物と昆虫や小動物など生物多様を促します。一回でも農薬を施すとバランスは崩れてしまうのではないでしょうか。
毎年違う気候風土、時の流れと共に変化する大地。その変化とともにオリーブオイルの味わいがあります。その変化も、混ぜて均一にすることなどない、シングルエステート(単一生産者のみのオイル)だからこそ味わえます。
アサクラ 代表
朝倉 玲子(あさくら れいこ)
一般企業、有機農業に携わった後、イタリアに滞在し有機農家民宿やミシュラン三ツ星レストランにて料理修業。オリーブオイル鑑定技能講座で学び、オリーブオイルの素晴らしさに開眼。本物のシングルエステートを探し、エキストラバージン・オルチョサンニータと出会い、故郷会津若松に戻り輸入開始。オリーブオイルの良さと使い方を伝えている。
http://www.orcio.jp