今年の5月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」の改正法が成立しました。この法改正により、同法に規定されている「合理的配慮」に関する規定も一部改正されることになりました。
ところで、この「合理的配慮」といういささか無粋な法律用語は、数年前、障害者差別の解消に関する日本の法制度に華々しく登場し、同法制度上の主役級の法概念として、障害者差別禁止法制において重要な役割を担ってきました。
もっとも、この法概念は、一般に広く知られているとまではいえないと思われます。そこで、今回は、日本の障害者差別禁止法制や合理的配慮の概念などについて、ご紹介したいと思います。
障害者差別禁止法制の全体像
憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定め、差別が許されないことを宣明しています。また、2006年に、障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)が国連総会で採択され、08年に発効しました。そして14年に、日本はこの条約を批准しました。ですので、日本の障害者差別禁止法制は、憲法14条1項や、障害者権利条約に適合するように解釈適用される必要があります。
国内における法律には、障害者施策全般の基本を定める障害者基本法があり、そのなかで障害者差別の禁止や合理的配慮について抽象的に定められています。そして障害者差別の解消を具体的かつ詳細に定めた法律が、障害者差別解消法と、障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)です。以下では障害者差別解消法と、そのなかで定められる合理的配慮について説明します。
「合理的配慮」が果たす役割
前提として、そもそも「障害」とは何でしょう? これについては、大きく分けて、身体の欠損や機能不全を障害と考える「医学モデル」と、社会構造や環境などによりもたらされる社会的障壁を障害と考える「社会モデル」があります。たとえば下肢に麻痺があるため、建物の2階にあるレストランを利用できない方がいる場合、その問題解決の手段は、医学モデルに基づけば下肢の麻痺を解消することになり、社会モデルに基づくとエレベーターの設置などが考えられます。障害者差別解消法は、「社会モデル」の考え方を取り入れているといわれ、また先に述べた合理的配慮という法概念も、社会モデルの考え方と親和的です。
では、具体的に法律の内容を確認しましょう。障害者差別解消法は、16年に施行された比較的新しい法律です。この法律では、行政機関や事業者が障害者を差別することを禁止するとともに、障害者に対する合理的配慮を提供する義務が定められています。
障害者に対する差別が禁止されるのは当然のことですが、ここで重要なのは、合理的配慮の提供が義務付けられる点です。合理的配慮とは、個々の障害者との関係で社会的障壁の除去が必要である場合に、その除去のためになされる配慮のことです。例えば、視覚障害を有する方が、図書館で借りた本を点字化する作業のために貸出期間の延長を求めた場合に、その本の貸出頻度なども考慮しつつ、通常よりも期間を延長して貸出しをおこなうことなどが、合理的配慮の一例です。
この合理的配慮の提供については、もともと行政機関に法的義務がありましたが、事業者は合理的配慮を提供するよう「努力する義務」があると規定されるにとどまっていました。しかし、今年5月の改正により、この規定も改められ、事業者も合理的配慮を提供する法的義務を負うことになりました。これにより、障害者差別の解消が一層推進されるとともに、障害を有する方が、より日常生活や社会生活を送りやすくなることが期待されます。