先月号では、私が担当していた少年の特殊詐欺事件について、少し事案を改変してご紹介しました。
今月号では、この少年の付添人(捜査段階では弁護人)として私がおこなった活動について、ご紹介したいと思います。
審判までの活動
少年の刑事事件では、一般にまずは捜査機関の捜査を受け、その後は家庭裁判所で審判を受けることになりますが、付添人にとって重要なのは、審判までの間に、少年が再非行に及ぶ可能性をできる限り低下させることです。
そのための活動の一つは、少年の保護者や学校の教員、仕事の上司などと会って、親子関係や今後の生活環境などを調整することです。
私の担当した事件でも、私は少年のご両親や、在学する高校の先生にお会いして、少年のこれまでの生活についてお聞きしつつ、少年の社会復帰後のことについてもお話をしました。
また、こうした環境の調整以上に重要なのが、少年自身の問題であり、少年自身が、自分のした非行の意味を理解し、反省するとともに、今後二度と同様の非行に及ばないためにどうすれば良いかを考えることです。
短期間で、少年に対して反省や思考を促すことは簡単ではないですが、今回私が担当した少年の場合、複数の特殊詐欺事件に及んだことから、逮捕、勾留も複数回おこなわれ、結果的には身柄拘束が少し長期化しました。そのため、私は、少年自身が非行に向き合い、反省する過程に、ある程度じっくりと関わることができました。
具体的には、まず、私は少年に一冊の本を差し入れ、この本を読むように促しました。その本は、『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)です。
この本は、コペル君という15歳の少年が、法学士である叔父との会話などを通じて、世の中のことや自分の生き方についての考えを深め、精神的に成長していく物語です。
私は、少年と一緒にこの本を読み、あたかも作中のコペルくんと叔父さんのように、作品についての対話をしていきました。そして、少年が、対話を通じて考えることに慣れてきたころ、少年が犯した特殊詐欺事件について、対話を通じて深く考えてもらうよう試みました。
ところで、弁護士である私が、少年に対して、特殊詐欺の問題の本質を教えることは簡単です。しかし、少年自身が問題の本質を真に理解するためには、少年自身が思考し、自分なりに結論に到達することが大切だと思います。そのため、私は、私が一方的に解答を与えるのではなく、対話を通じて深く考えることを促したのです。
例えば、特殊詐欺の被害者の方にはどんな被害が生じているだろうか。その被害は金銭的なものだけだろうか。高齢者である被害者は、被害にあってどのような思いをしているだろうか。被害者の方は、これまで、どのようにして、また、どのような目的で、お金を貯めてきたのだろうか。被害後、被害者の方の家族の人間関係はどうなっただろうか……。
また、今後二度と同様の非行に及ばないために、どのように生きたら良いだろうか。もしも同じようなグループに巻き込まれそうになったら、どのような行動を取れば良いだろうか……。
審判
家庭裁判所での審判当日、少年は、裁判官や私の質問に対して、誠実に回答しました。少年が、自ら深く考えてきたことが明らかに伝わる内容の回答であり、私の想像を上回る回答もありました。そのため、質問をする私のほうが、思わず声を詰まらせる場面もありました。
このように、少年の成長の場に立ち会うことができるのが、付添人活動の醍醐味なのかもしれません。