柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)という漢方処方があります。製薬会社の効能説明には≪体力が弱く、冷え症、貧血気味で、動悸、息切れがあり、神経過敏のものの次の諸症: 更年期障害、血の道症、神経症、不眠症≫と書かれています。
診療していくなかで、この処方が合う患者さんは「自分を責めている」人が多いことに気づきました。この処方が合う人に、「自分のことを責めていませんか?もっと自分がちゃんとすればよかったのにとか、自分が悪かったからこうなってしまったという思考パターンが多くないですか?」と聞くと、ほとんどの方が「その通りです」と答えます。そういう方には、この漢方薬を処方して「私は悪くないし、だめじゃない」と繰り返し言い続けましょうと説明しています。「悪くないし、だめじゃない」と繰り返し言い続けていると、悪くないってどういうことだろうか?だめじゃないってどういうことだろうか?と意味を考え始めます。
だめじゃないということは、そのままで良いということです。そのままで素晴らしいということです。そこまでたどり着けば、もう大丈夫でしょう。すぐにその心境にたどり着くことはないかもしれませんが、めげずにずっと続けているといつかたどり着きます。
ワンオブゼムとオンリーワン
私たちは、自分がどこに所属しているかということをつねに意識して生活しています。○○家の家族の一員であり、〇〇ちゃんの母親です。○○という地域に住む住人です。○○という会社の社員であり、〇〇国の国民です。そして、誰もが地球に100億いる人間の一人であり、無限に存在する星々の一つに生きるちっぽけな一つの生命です。そういう視点に立つと、自分は「ワンオブゼム」で、取るに足らない、価値のない、どこかの誰かと交換可能な存在だと感じてしまうかもしれません。
それでも!!あなたが素晴らしい理由は、数え上げたらキリがないほどあります。あなたの体の臓器や細胞は、あなたが意識しなくてもそれぞれの役割を果たして、その生命を維持し続けてくれます。その細胞の設計図は、両親、祖父母、曾祖父母と代々受け継がれてきて、今ここにあります。江戸時代、平安時代、縄文時代、ヒト以前、恐竜の時代、38億年前の生命の誕生までさかのぼることができます。天変地異や飢餓や戦争などがあっても、一度も途切れることなく続いています。
また、あなたの細胞を構成する元素は、恒星の核融合反応と、超新星爆発による合成によってできています。太陽も地球も私たち生き物も、みんなこの宇宙で生まれては消えていく星々の子どもです。この広大な宇宙のどこを探しても、これだけの歴史を積み重ねてきた物質でできている、あなたという存在は唯一無二です。
さらに、この宇宙でこの瞬間、あなたの存在する場所(座標)を占有しているのは、あなた一人だけなのです。この今の経験を体感できるのは、あなただけです。あなたは「オンリーワン」の存在なのです。
オンリーワンの自分を忘れずに
「ワンオブゼム」の視点と「オンリーワン」の視点、どちらも真実です。ところが、私たちはどうしてもどちらかだけに偏りがちです。そうならないために、私たち人間は、両方の視点を併せ持った矛盾した存在なのだということを認めましょう。
そして、どんなに自分のことを責めていても、その責めている自分、責められている自分、どちらもオンリーワンの自分であることから逃れることはできません。
「取るに足らない、ちっぽけだけど、オンリーワンの素晴らしいあなた」へ。